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私は聖女じゃなく魔導士だったようです  作者: 日和るか


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13/31

13:師匠の補佐官になりました

 母親が獣人族で魔人族の父親に支配されていたソインは、〈解呪士〉ルルディの力により父の呪縛から逃れられた。


 魔導統治国元首、導師フライン・ブロウ魔導塔主は、犯罪者の彼を罰しないで監視下に置く事を決めた。その独断決定に対しては大臣たちも寛容だった。

 魔導士たちは従属魔法の恐ろしさを知っている。それも幼い時から父親から奴隷扱いされていた青年は被害者でしかない、と皆が同情したからだ。


 湖の魔獣騒動もテオドルスの初動対応が的確だったため、騒ぎにはならなかったのも大きい。結局、石板から現れたのはテオドルスが倒した魔大蛇だけで、速やかな石板回収後は真空封印を施したため、魔導具として機能しなくなった。


 逮捕されたソインに関しては緘口令が敷かれ、関係者と上層部しか知らない。


『“ソイン”は侮蔑の言葉だ。新しい名前が必要だな』

 そう言ったブロウに、『それでは獣人族の古い言葉で“セイラン”なんてどうでしょう。“新しい”と言う意味ですわ』と博識のカフェロンが提案して、ソインも同意する。


 魔人族国ローエンサガのソインは死んで、今後はセイランとして魔導国で生きていく事になった。


 魔導島に魔導士以外が住むのは特に条件が厳しいわけでもない。

 ただ、大半の魔導士は親元を離れて幼少時から魔導国で育つため、魔導士同士で所帯を持ってそのまま暮らす場合が多い。

 その子供達に魔導力がなければ、成人すると彼らは大抵魔導島を出ていく。疎まれはしないのに、魔導国に居着くのは肩身が狭いらしい。


 もちろん他国の魔導士団などに所属する者たちも大勢居る。故郷だったり配偶者の母国だったり、給金が良かったりと理由は様々だ。


 セイランは、ある獣人の漁師の元で見習いをすることになった。

 建前上、“研究助手”として住居棟に住む事が決まった彼は、常時研究に縛られるわけではないので暇が多く、それなら漁師になりたいと思った。

 陸を離れて船に乗るから却下されるかもと心配したセイランだが、その希望はあっけなく通る。


「やっほー、セイラン、頑張ってる?」


 浜辺で魚を捌いているセイランの元にルルディがやって来た。


「あ、は、はい。こんにちは、ルルディさん」


「いい加減、呼び捨てにしてくれないかしら。八歳も年上なんだし」


「……ははっ」

 セイランは愛想笑いで「そのうちに」と答える。命の恩人なのだ。心情的においそれと気安くできない。


「浜辺に散歩に行くと言ったら、カフェロン様から伝言を頼まれたわ」


 砂浜で貝殻を拾うのが最近のルルディの日課だ。たまたま住居棟の廊下ですれ違ったカフェロンから『海に行くならついでに』と言付かった。


「カフェロン様から!?」

 ルルディと会話しながらも手元を見たままリズミカルに魚を捌いていたセイランが、手を止めて顔を上げ目を輝かせた。


「手伝いの依頼と、良かったら昼食を一緒にだって。〈呪術士〉の研究室に行ってね」


「分かりました! 師匠に言ってきます!」


 魔導士たちの師弟関係に倣ってか、セイランは先輩漁師の弟子を自称している。嬉しそうな反応の彼にルルディは不服顔だ。


「どうして私よりカフェロン様に懐いてるんだろ。彼女は偏屈で付き合いにくいって、本人が言ってるのに」


 恩人ではあるけれど、セイランはルルディが少し怖い。

 実力者だから解決のために手段を選ばない潔さは、なかなか普通人には慣れない一面である。それに比べたら偏屈自認のカフェロンは、研究熱心なだけなので怖くない。



「いらっしゃい、セイラン!」

 カフェロンは穏やかな笑顔で獣人を研究室に迎え入れる。彼女に会うとセイランの耳も尻尾も嬉しそうにぴょこぴょこ動くのであった。



 

 漁港の砂浜で大小の貝殻を網籠に入れているルルディの姿は、周りから見れば年頃の娘が綺麗な貝殻を集めているようで、微笑ましく見られている。

 しかし実情はそんな可愛らしいものではない。



 魔人族の従属魔導具を無効化した彼女の類稀な魔導力は、ソインの存在とともに秘匿された。


 それまでは第二研究棟の〈呪術士〉の職場で持ち込まれる呪物の解除や、魔物の毒素で荒れた土地に行って救済したりと、ルルディは普通の騎士団員として働いていた。


 ソインの件で、ルルディを型に嵌めてはいけないと導師ブロウは悟る。


 ルルディの〈解呪士〉という特殊な称号を特別なものだと示すため、騎士団の幹部である“特級魔導士”テオドルスの正式な補佐官に、彼女を任命した。


 今までは慣例としての師弟関係だった二人が、より密に情報共有する立場になった。これにより、表立って『テオドルス様に纏わりつかないで』と絡んでくる女性はいなくなったので、ルルディは快適だ。


 成り行きで面倒を見ていたテオドルスの後を、気軽に追っていたルルディが煙たいのは当然だと、彼女も甘んじていた。ただ『男たちにちやほやされていい気になっている尻軽』なんて誹りは許さなかった。


『じゃあ、あなたたちだって尻軽じゃないですか』


 納得いかない喧嘩を売られたら買う。

 若い独身女性は奢ってもらったり、贈り物をされる事が多いのを知っている。ルルディは極力断るようにしているし、男性たちに貢がせている女性に言われると滅茶苦茶腹立つから反撃する。


 祖国で平民聖女として虐げられても黙るしかなかったルルディも、ここでは生まれ身分の差がない魔導士だ。卑屈になんてならない。しかし反論するのもいい加減面倒だとは思っていたので、今回の辞令はありがたかった。


 塔主ブロウは一介の魔導士を贔屓にするような人物ではないと、国民に信頼されている。その導師が決めたのなら真っ当な人事であるからして、ルルディが批判される謂れはないのだ。


『ルルディの考えや判断が理解できて、瞬時に助力行動が可能な者はテオドルスしかいない』


 ブロウのこの言葉に納得しない重鎮はいなかった。この人事の真意は、“特級魔導士”が平魔導士の補佐をするという異例のものなのだ。

 当のテオドルスが『今と変わらないですね』と反発もしなかったから、何も問題ない。


 そうしてルルディは魔導塔のテオドルスの執務室の隣に自分だけの研究室をもらい、好きな事をしている。


 呪術の実践は〈呪術士〉の職場では勝手に出来なかった。カフェロンやルートロースも同室だし、規格外のルルディの扱いにカロスイッチが慎重になっていたからだ。


 それが自分一人の研究室! 人間族最強防護を誇る建物で、気兼ねなく自分の思う実験ができる。ルルディは大出世に大喜びだ。


 貝殻集めも彼女独自の実験のためで、ルルディの研究室の机の一つには貝殻の他にも色々な大きさと色の石が置いてあった。



「何をする気だい?」

「呪いをかける呪術の強度と、解呪にかかる時間を調べます」


 各種貝殻と石の収集物を不思議そうに見て問いかける上司に向かって、補佐官は揚々と語る。


「どうして石と貝なんだ?」


「石は生物ではないものの手軽な品です。貝殻は……実験で生き物に呪術をかけるのは非人道なので。貝殻には中身の名残があるから、その気配を増幅すれば生き物の代用品になるのではと考えました……」


(うん……? 発想は分かるが……貝に思念があると? いや、生物の気配の増幅と言ったか? それで本当に代用になるのか?)


 テオドルスは首を傾げるが、何でもやらせる方針なので口は出さない。結果が出なければ、この弟子はまた違う方法を考えるだろう。

 ソイン改めセイランのような存在を知り、魔人族の呪術への対抗手段を模索するのだ。カフェロンとは全く異なる切り口で、それはルルディしか成し得ない。


「無茶はしないように」


 テオドルスはテオドルスで他の案件に関わってるから、それだけ告げて長居はしない。


 __何故、魔人族が魔導島を狙ったか。

 これは人間族の中の魔導を扱える者を攻撃対象にした、前代未聞の事件である。人間族と魔人族は今まで国同士で争った事はない。住む大陸が違うので互いに不干渉を貫いている。


 人間や獣人が住むこの大陸を欲するなら、弱いところから攻めるのではないか? いや、いきなり人間族最高軍事力保持国を潰して、人間や獣人を征服する気ではないか? いや、ただの力の見せつけかも知れぬ。

 実質軍隊である騎士団の評議会でも意見が錯綜している。


 仕掛けたのはセイランの父であるローエンサガ国の一貴族のようだが、背後に国がついているのかどうか。とにかく意図が読めなくて不気味なのだ。


 魔人族の国にも諜報員はいるけれど、隠密魔法に長けた優秀な者しか務まらないので数は少ない。

 しかし今回はセイランの父に標的を絞るのは必須である。魔人個人に対する捜査は困難で危険度も高い。その派遣騎士の選定がテオドルスに一任された。責任重大だ。場合によっては自身も乗り込む。


(やれやれ、ブロウ導師に使われすぎなのは、あながち間違いではないな)


 かつてルルディに言われた言葉が頭を(よぎ)り、テオドルスは密かに苦笑いをしたのだった。

 


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