8.王子は自己肯定感高め
アンさんがお茶を淹れなおしてくれ、全員にお茶が行き渡ると、王子は話し始めた。
「早速ですが、あなた方を召喚した理由を。この世界では魔素という目には見えない物質を利用して生活しています。この魔素が乱れると、生態系がおかしくなったり、魔道具が使えなくなったり暮らしが困難になります。
そこで我が国では、25年おきに魔素の影響をうけない異界人を招き、魔素の調整をお願いしています」
「じゃあ25年前も日本から誰か来たの?」
「はい、前回はあなたのような女生徒で、そのさらに前は中年男性だったそうです。正直、共通点はわかっていません。今回のように複数人召喚されるのは初めてのケースです。」
「多分それは私がヒナちゃんの近くにいたからだと思います」
「そうでしたか、私が魅力的なせいだったかと」
王子の本気だかジョークだかよくわからん発言をスルーし、王子の後ろで眼鏡の青年がメモを取る。
「調整って何をするんですか?」
ヒナちゃんがワクワクしながら尋ねる。
「魔素をつかさどる精霊を祭っている祠があります。その聖域の結界がほころびると、この国すべての魔素が乱れ始めるのです。そこで異界の知恵で以前の結界を解除し、精霊と話し合い、ともに結界を新たに結びなおしていただきたい」
(なんのこっちゃ?老朽化したマンションの自治会の話し合いか?)
首をかしげていると、ひなちゃんが頷いた。
「つまり、祠にいって、精霊と結界を直せば、この世界の生命線である魔素が安定するのね」
「その通りです」
「まってまって、理解はやい」
「異世界チュートリアルは常識ですから」
「ゆとり教育すご」
「それだいぶ前の教育だよ」
「昔は土曜日も学校あったんだよ……半ドンってね」
遠い目をして紅茶をすする。
「引き受けていただけるだろうか?実はすでに魔素のバランスが乱れてはじめており、命に係わる魔道具が故障したり、動物や農作物に異変がでています。」
「私からも重ねてお願いします」
王子の横で、ミカさんも頭を下げる。
「ヒナちゃん、どうする?」
「困ってるみたいだから、やろうかな。面白そうだし」
「もちろん可能な限り、謝礼もします。失敗しても元の世界にお帰りいただけると約束します」
王子が畳みかける。
「その調整作業は、どのくらい時間がかかるのかしら?」
「ちょうど明日から、王都で大きな祭りが3日間開催されます。精霊は祭りが好きなので、祭りの期間中にだけ祠が開きます。その間にお願いできれば、と。」
「最大3日間ってことですね」
「私は問題ないけど、ショウコさんは?」
乗り掛かった舟だ、仕方ない。
内心ため息をつきながら、頷く。
「お役に立てるかわからないけれど」
「ありがとうございます!顔がいい王族が国を代表して、心からあなた方に感謝いたします。」
「この国の王子、強気すぎる」
「まぁセルフラブは大事だよね。ウェルビーイング的に。」
「ウェルビー?スパイスガールズの新曲?」
王子が白い歯をみせ、場が和んだときだった。
後ろに控えていた眼鏡の青年の顔色が変わった。
「王子、緊急通信が入りました。今すぐ外をご確認下さい!」