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7.びっくりしただけで涙が出る

アンさんが朝の挨拶とともに、体調はいかがですかと声をかけてくれる。


「朝食は下でミハイル様とご一緒にいかがでしょう」

「はい」

「1階の食堂にご案内しますね」


美しく伸びた背中に、ひなちゃんと2人でついていく。

昨夜は気づかなかったけれど、磨き上げられた廊下には深紅の絨毯が引かれ、いたるところに花や絵が飾られていて華やかだ。

ミカさんが選ぶとは思えないから、あの可愛いが詰まったクローゼットといい、奥様か娘さんの趣味だろうか。


「朝食にはご家族もいらっしゃるんでしょうか?」

「ご家族?あぁ、ミハイル様は独り身で、ご結婚もされてませんよ。」


アンさんは、にっこりと笑って続ける。


「パートナーどころか、女性の方をこの屋敷に連れてきたことはありません。」


(その割に洋服やら、女性ものが揃ってたけど……どういうこと?誰のものなのかしら?)


人の事情には立ち入ってはいけないと、深く考えないことにする。


(どうせすぐ帰るしね)


案内された食堂は、シャンデリアがぶら下がり、大人数で晩餐会でもできそうなリッチな雰囲気だ。

長いテーブルの端でコーヒーを飲んでいたミカさんはこちらに気づくと、にっこりと立ち上がり迎えてくれる。

ミカさんも今日は作業着ではなく、サックスブルーのシャツにライトグレーのスラックスのさわやか休日コーデだ。


「おはようございまーす」

「おはようございます。昨日は眠れましたか?」

「はい、ありがとうございます。お待たせしちゃいました?」

「いえ、僕は花の世話があるから朝が早いんですよ。今日は顔色がいいみたいでよかった」


顔色つーか、顔が違う女が出てきてもニコニコと動じないミカさんは懐が深いのか、なんなのか。


「ええ、お借りした服とヒナちゃんのおかげで」

「しょうこさんに似合いますね」


目を細め、嬉しそうに褒めてくれる。


(ナチュラルに女性を褒める文化圏かここは)


ミカさんの滲みでる大人の色気に、うっかりドキドキしてしまい、慌ててヒナちゃんの方に目をやると、スマホ片手に窓に張り付いて庭園を撮っていた。


「今日は天気がいいから外で食べようか?」

「やった!」


ミカさんの提案で庭園へ向かうと、真っ白なテーブルクロスがかかった丸テーブルがすでにセッティングがされていた。

真ん中には温室でみた白い花が1輪、さりげなく飾られている。


(やっぱり、いい香り)


席に着くと、すぐに温かい朝食が運ばれてきた。

おいしそうな匂いが鼻をくすぐる。


トロトロのタマゴに、パリッと肉汁が溢れるソーセージ。焼きたてのクロワッサンはバターの芳醇な香りに、甘味と少し塩気のあるサクサクの生地が噛むたびにじゅわりと口の中に広がり、最高だ。シャキシャキのグリーンサラダには花びらが散らされ、鮮やかなオレンジのドレッシングが目にも美味しい。

フワフワのパンケーキにはフレッシュフルーツが盛られ、イチゴの大粒が入ったジャムと白い生クリームがたっぷり添えられている。

金縁のティーカップには、私が好きなアールグレーの薫り高い紅茶が注がれる。


「わー!おいしそう!!」

「我が家自慢の料理人なんだ」

「いただきまーす!ん~おいし!ね、しょーこさん……って、泣いてる?!」

「久しぶりの人間らしい生活で…目から塩が…」

「泣かないで、メイク落ちる!」

「最近、涙もろくてね」


花を眺めながら、誰かと美味しい朝食をとる。


(こんな心穏やかな時間、久しぶりかも)


のんびりと食後の紅茶を楽しんでいると、屋敷のほうが騒がしくなった。


扉から現れたのは、おとぎ話の王子様のように美しい若者だ。

背後にはスタイルのいい礼服の青年たちが付き従っている。

まるでアイドルグループのようだ。


「わぉ」


ひなちゃんも目をぱちぱちさせている。

センターの王子は横に控えていた眼鏡くんの耳打ちに頷き、薔薇(※イメージ)をしょいながら、イケメンたちを率いて真っすぐに歩いてくる。


「早かったな」

「叔父上」


白い歯をみせて笑う青年に、手を挙げてこたえるミカさん。


「こちらが異界のお客様だ」

「初めまして。ようこそ、我が王国へ。」


青年はこちらを向くと、キラキラした笑顔で、手を差し出した。

まつげが長くて、頭が小さくて、足が長くて……


「こ、これが…令和?」

「しょーこさん、ちがうよ、異世界だよ。しっかりして」


恐れおののいていると、おじさんが紹介してくれる。


「彼が、この国の皇太子だ。」

「本物の王子様なの!?」


思わずミカさんを振り返る。

ヒナちゃんは王子様だ~と、パチパチ拍手をしている。


「本来であれば昨日お迎えするところ、失礼しました。私は第一王子のカイトです。顔がいいだけで中身は普通の王族なのでご安心ください」

「初めて聞くタイプの謙遜だな」

「普通の王族ってなに」

「王族ジョークなのでお気になさらず」


ヒナちゃんと顔を見合わせると、王子の後ろにいた眼鏡の青年がフォローする。


「姫君、お名前をうかがっても?」


王子様に名前を尋ねられ、動揺する私を横目に、ヒナちゃんはしれっと名乗る。


「私はヒナです!15歳の高校1年生!」


王子の後ろから、お前は誰だという視線が突き刺さる。


「昭子です。あー、ヒナちゃんの保護者代わりです。お世話になります。」


名刺交換のときの深いお辞儀をすると、納得する空気が流れた。


「ちょっとまって、今後ろでだれか乳母って言った!保護者だぞ、乳母ではないぞ!」

「まぁまぁ、ウーバー頼もうって話っしょ」

「異世界にウーバーイーツあるか!騙されないぞ!乳母じゃないからな!近所のお姉さん的な保護者だぞ!」


訂正途中で、眼鏡の青年が咳払いをする。


「早速ですが、本題に入っても?」


渋々テーブルについた。



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