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5.就寝前はノンカフェインで


見事な彫刻がほどこされた大理石のエントランスに、髪をまとめた綺麗な女性が立っていた。

ミハイル様と呼ばれていたミカさんは、女性に親し気な笑みをみせている。


(奥様かしら)


さっき無理やり飲み込んだスルメが喉に詰まったような、変な感じがする。


「ミハイル様、そちらのお嬢様方はもしかして」

「アン、異世界のお客様だよ。まさかと思ったが、こちらへ到着されていた。私は王城へ急いで連絡するので、ゲストルームへ案内してもらえるか」

「承知しました」


アンと呼ばれた女性は、こちらへ向き合うと一礼する。


「お嬢様方、ようこそトライメライ王国へお越しくださいました。執事のアンと申します。ご滞在中のあれこれは何でもわたくしにお申し付けくださいませ。」

「よろしくお願いいたします!ヒナです!」


ヒナちゃんが目を輝かせて挨拶する。

これ絶対、本物の執事キター!とか思ってるな。


「山本昭子です。異世界は初めてでご迷惑おかけしますが、お世話になります」


頭を下げると、アンさんは少し不思議そうな顔をしたがすぐに笑顔で、こちらへと案内してくれた。通されたのは、最上階のスイートルームのような部屋だった。

ふかふかの革張りのソファの応接間に、猫足の大きなドレッサーがついたメイクルーム、薄桃色のドレープたっぷりの厚手のカーテンには白い花が刺繍してある。

少女が好みそうな瀟洒な雰囲気で、まるでお姫様のお部屋だ。


「しょーこさーん、みてみて!バルコニーからの眺望最高!」

「お風呂が広い!私の部屋より大きいわ。寝室も2つあるのね」


想像以上の豪華さに感嘆していると、アンさんがいつ淹れたのかお茶を差し出してくれる。

人肌より少し温かいお茶は、すっきりした香りがして心がほぐれていく。


(これはカモミールに近い、いやフェンネルも少し、あとこの甘さは…)


香りのレシピを特定しようと、ついつい職業病でカップに鼻をつっこんでいると、アンさんに声を掛けられる。


「リラックス効果のあるハーブティなのですが、お好みに合いませんでしたか?」

「あ、いえ、とてもいい香りでつい。うん、おいしいです。ありがとうございます。」

「お口に合って良かったです。」


にこりと微笑みかけられる。


「お着替えなどは、クローゼットの中のものを自由にお使いください。明日お好みの洋服を揃えさせていただきます。ご不便をおかけしますがご容赦を。ほかになにか必要なものがございましたら、お申し付けください」

「あ、スマホの充電できるやつありますか?これなんですけど」


(いや、さすがに充電器はないだろう)


そう思ったが、アンさんはヒナちゃんの手元をちらりと見ると、明朝までにご用意しますと笑顔で即答した。急な来訪に嫌な顔ひとつせず対応する姿はまさにプロフェッショナル。

御用の際にはこちらを、と呼び鈴を置いて、アンさんは美しいお辞儀で退室していった。

残されたヒナちゃんと2人、顔を見合わせる。


「なんかすごい世界だね」

「あのおじさん、何者なんだろう。実は富豪なのかな」

「珍しい花を育ててるみたいだよ」

「花農家さんかぁ」


納得したのか部屋の探検を始めたひなちゃんに、先にお風呂どうぞとすすめられる。

シャワーを軽くあびて浴室から出ると、ヒナちゃんははしゃぎ疲れたのか、ソファで丸まって寝ていた。


「おーい、ベッドで寝たら」


声をかけても反応がない。

熟睡しているようなので、肌触りの良いブランケットをそっとかける。


「おやすみなさい」


小声で就寝のあいさつをして、灯りを小さくする。


(おやすみなさい、なんて久しぶりに言ったな)


念のため、扉と窓の内鍵を確認してからベッドに横になる。

身体は疲れているのに頭が妙に冴えて中々寝付けない。

さすがに見知らぬ場所でお酒を飲む気にもなれず、バルコニーに出てみる。

この屋敷は少し高い丘の上にあるらしく、街が一望でき美しい夜景が広がっていた。

カラフルなブロックでつくったような、レンガ造りの家に温かい灯りがともっている。


(異世界か……いい光景だな)


屋敷ではまだ人が起きている気配がする。

どこか安心しながら、気づくと眠りに落ちていた。



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