表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

散歩

作者: 立花 梨花

ガヂャン


家のドアを閉めて、鍵穴に鍵を入れて鍵まできちんと閉める。


ガヂャガチャ


ちゃんと鍵がかかったことまで確認したら、やっと歩き出す。

なんて事ない休日に、なんて事ないお散歩に行きたくなったのは、もう何十分前の事だろう。下手をしたら1時間経ってしまったかもしれない。

何となく、今日が退屈だったから。何となく、スマホの奥にある窓から差し込む光に惹かれたから。そんな何となくで、私は今街並みを歩いている。少し奥まったところにある家の細道から、慣れた足並みで大通に出てきたところだ。

さてここからはどこに行こう。耳にはワイヤレスイヤホンをして、お気に入りの音楽が流れている。スマホは勿論持ってきたので、電子決済は使えるが、あいにく財布は必要に思えなくて置いてきた。とすれば何かお店屋さんではなくて、家の近くの公園にでも行くか。確か今はあの立派な藤棚が咲いているのではないだろうか。そんな淡い期待を胸に、公園までの道のりを歩く。久しぶりに、遊具で遊んでみてもいいかもしれない。

今の私はもう社会人になって、今日は有給を消化しろと脅されて急に休みとなった。別にいいんだけどさ。あーあ、憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれそうな青空を見上げる。

公園に遊びにくなんて、何年ぶりだろうか。

どこか行く時に公園が目に付いて。なんて事は今まであったけど、目的地が公園で、ましてや遊んで帰ろう何て思った記憶はもう少なくとも数年間はない。

なんだか足取りが軽い。会社に行く時もこれくらい軽ければいいのに。今日は平日だ。平日の昼間。大の大人が公園を満喫していても、許して欲しい。

目に入る景色が、大通りから住宅地へと変わってきた頃。公園が見えてきた。最近は、仕事、仕事で運動をあまりしていなかったからだろうか。疲れた。あれー、若い頃はどうだったっけ。

とりあえず公園へ足を踏み入れる。予想通り藤が満開とは行かなくても咲いていて、藤棚の下にひっそり佇むベンチに腰を下ろすことにした。ふー、少し影になってて涼しい。藤棚が咲くような季節という事で、もう4月も終盤。真夏のような暑さ、とまでは行かなくとも、額にうっすら汗が浮かぶ。緩やかに吹く風が心地いい。

しばらくワイヤレスイヤホンから流れてくる音楽と、藤棚と、木陰を堪能して体力が少し回復すれば。ベンチの真ん前に見えるブランコが、私を漕いでと言わんばかりに風邪で揺らめいているのが気になりだす。よしよし、そこまで言うならば。

ベンチから重い腰を上げる。


キィー

キィー


金属が錆びてる様で、キィキィと音が鳴っている。特有の浮遊感だとか、キィキィとなる音だとか、地面を蹴る感覚だとか。嗚呼私は今ブランコに乗っている。少し調子に乗って、本気で漕いでみる。すると、小さな頃は本気で漕いでも危うさなんて微塵もなかったのに。体も体重も大きくなって反動がつきやすくなったのだろうか。そうそうに一周してしまいそうになった。やばいやばいと急いで足でブランコを止める。1度完全に止めてから、またゆっくり漕ぎ直す。

暫くブランコを堪能したらならば。斜め前にある砂場だとか、真横にある滑り台だとか。なんなら公園の柵に沿うように置かれている鉄棒まで私と遊ぼうと誘ってきてくれる。よーし、こうなったら。


結構。夕暮れ時になってきて、子供たちが遊びに行っていた友達の家から、自分の家へと帰り出す様な時間になるまで私は公園で遊んでいた。楽しかったなー、明日は筋肉痛かな?なんて思いながら。私は今日で3年は若返ったかもしれない。

もうあの子供の頃のように、家に帰ったら、おかえりって汚した服を叱ってくれる存在も、晩御飯できてるよって言ってくれる存在も。居ないけれど、今は今で楽しいなって。何もかも吸い込んでくれそうな夕焼け空を見上げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ