第3話 お披露目&初配信本番
そして迎えた配信当日。
勝次が色々と設定の確認をしている中、私は配信用PCを前に、まな板の上の鯉状態でうなだれていた。
「まさか配信前からこんなに登録者が増えるなんて……。勝次の知り合いだけとか、そういう小ぢんまりとした感じの配信になると思ってたのに……」
「俺の知り合いもそうだけど、真田さん……この3Dモデルの製作者の先生も配信を宣伝くれたりしたからな。今度お礼言っとかなきゃなあ」
「私、配信初心者なのよ? それなのにこんなのダメでしょ……」
「大丈夫。康美なら出来るよ。極限状態で康美の内から出るであろう真なるギャル、楽しみにしてるからな」
「何言ってんの? 〇すわよ?(半ギレ)」
「き、緊張を和らげようとしただけだから」
「〇すわよ(全ギレ)」
「ゆるして……」
コイツ本当にいつも通りね。
「……っと、これでOKかな。じゃあ時間が来て画面にモデルが映って、康美の動きに連動して動くのを確認してから喋り始めてくれ」
「う、うん」
「それじゃあ俺は隣の部屋でモデレーターやりつつ配信見てるから頑張れよ」
「え?」
「変な奴が湧いたりしたら容赦なくNGミュートしてやるから安心してくれな」
「あ、う、うん」
そっか、配信って一人っきりでやらないといけないのか。すっかり忘れてたわ。
うう、なんか急に心細くなってきたかも……。
「そういえば勝次のアカウント名は何て言うの?」
「モデレーターマークが付いてるからすぐ分かるぞ」
「なんで教えてくれないのよ」
「とりあえず全然俺自身とは全然繋がらないだろうから楽しみにしててくれ」
「変なの」
そう言い残して勝次は隣の部屋へ移っていった。
配信まであと五分。泣こうが喚こうがその事実は曲げられない。
……よし! 女は度胸! 一発やってやろうじゃないの!!
————— 【やっほー】 新人VTuber本原つぐみのお披露目初配信 【本原つぐみだよー】 —————
:きちゃ!
:すごい可愛かったから期待
:みんなオタクに優しいギャル好きなんやなって
『あ、あー……あ、もう映ってる? じゃあ、初めまして! 本原つぐみだよ! オタクくん達、よろしくねー! ……って、もう200人も来てくれてるの!? すごい!』
:かわいい
:おお、良い感じ
:このご時世に個人勢でこの人数はすごい。個人勢だよね?
『個人勢だよー。前から配信に興味あったんだけど、友達がこういうのに詳しくてさ。色々手伝ってもらって……というかほぼ任せっきりだったけど、こうして配信してるよー』
:初配信とは思えぬ喋りとコメ拾いの滑らかさ
:ええやん……
【服部ミヤビ】:つぐみん可愛い!!
(!? このミヤビってのがモデレーターってことは……これが勝次!? だからアカウント名教えてくれなかったのね。まさかこんな仕込みまでしてるとは思わなかったわ。
ちくしょう、やってやろうじゃないのこの野郎!)
『あ、ミヤビじゃん! 色々協力してくれてありがとねー』
【服部ミヤビ】:良いってことよ
(なんかムカつくわね)
『っと、ごめんねみんな。話し込んじゃった』
:てぇてぇ
:てえてえ
:キマシ……いや、いかん。すぐそっちへ結びつけるのは紳士にあるまじき思考である
『話を戻すけど、漫画とかゲームとか好きなんだけど周りにそういうの話せる子が居なくてさ。配信ならそういう話しやすいかなって思ったんだ。
ちなみに好きな漫画はグラップラー刀牙とケンバンアシュラだよ!』
:うん……うん!?
:いきなり虚を突いて来たな
:どんな部分が好きなの?
『どっちも格闘漫画としてはファンタジー気味な作品ではあるんだけど、ギリギリ「現実でも出来る人いるんじゃないか?」と思わせるラインが良いわよね。必殺技的な漫画的なエンタメとしての演出は大事よやっぱ。でもそういう作品だからこそ、刀牙の武神とかケンバンの白木みたいな、基礎的な動きが極まってる系のキャラが逆に魅力的に見えるわよね。派手な必殺技は無いけど一撃一撃の完成度が段違いみたいな。そういう意味だとケンバンの小久保もすごく良いわよね』
:一を聞いたら十が返ってきたでござるの巻
:すげえ語るしすげえ分かる……
:やべえよ、こんなの聞かせられたらガチ恋しちゃうよ……
『あはは、オタクくんたち面白ーい。好きなことを誰かと話せるのってやっぱり楽しいね。配信やって良かったかもー』
:俺も楽しいよ
:つぐみんが楽しいなら良かった
:ギャルがオタクに優しくする時、オタクもまたギャルに優しくしているのかもしれんな……
(お、いいパス!)
『今いいコメントがあった! そう、あたしはオタクに優しいギャルだけど、優しくするだけじゃなくてオタクくん達にも優しくして欲しいと思ってるのよ』
:ふむ
:なるほど
『あたしがこんな見た目だからか、オタクくん達と好きな作品の話しようとしても「どうせ興味ないんでしょ?」とか「からかってるだけなんでしょ?」みたいな反応されてまともに取り合ってもらえなかったりしてさ。確かにそういうことする奴らもいるから分かるんだけど、それでもちょっと悲しいかなって……』
:ヴッ……!
:あの時のアレって……うわあぁぁぁぁ!
:心を開いていなかったのは俺たちの方だったのかもしれない…
『だから、さ。こうしてオタクくんたちと好きなことを楽しく話せるのが本当に嬉しいんだ』
:つぐみん……
:つぐみん……
【服部ミヤビ】:つぐみん……
(あんたはノるんじゃないわよ)
『……っと、しんみりしちゃったね。まあ配信を始めた理由とかについてはこんなところでいいかな。そんな訳でこれから色々やって行きたいと思ってるからよろしくね』
:こちらこそよろしくやで
:これから推します
『じゃあ後は質問コーナーにして終わりにしようかな。あ、スリーサイズとかは答えないからね。そういうのはもっと親しくなってからよ』
:親しくなれば教えてくれるのか……
:草
:次の配信予定はあるの?
『あ、色々来た。えーっと、じゃあまず……』
最終的に視聴者が1000人を超える事態になりつつ。
こうして和気あいあいとした雰囲気の中、私の、本原つぐみの初配信は幕を閉じたのだった。