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閑話 本多勝次の企み

 俺を蝕み始めた欲望。それは、

「康美が本気で自分自身を出す姿が見たい」

 というものだった。


 いや、俺との普段の会話も本音でしてくれてるものだろうし別に遠慮しているとは思わないけど、そうじゃなくて、もっと多くの人の前で活き活きと喋っている康美が見たいと言うか。


 康美は一人でいるのが好きとはいえコミュ障という訳ではないし、むしろ一人でいるために面倒事をさっさと片付けるためかコミュ能力は高いんだよな。

 だからもっと自分を出して人と関わっても良いと思うんだけど、何故かそうしたがらなくて。だからそんな康美を人前に引っ張り出す良い方法が無いかとはずっと思ってたんだよな。

 

 ……ここまで言えば分かってもらえるかもしれないけど、そこで俺が思いついたのがライブ配信という手段だった。

 ちなみに顔出し配信は最初から全く検討して無かった。

 あいつ自分では頓着無いみたいだけど、愛嬌のあるタイプの可愛さがあって妙に人目を引くんだよな。

 しかもオタク趣味に理解があるとか、そんな劇物を異性慣れしてないオタク共に見せられる訳ないよなあ?

 


 という訳でライブ配信&顔を出さないという条件で考えた結果、VTuberという外見ガワを準備することにした。

 康美がすんなり応じるとは思わないけど、「3Dモデルまで用意済み!」となれば、なんだかんだいいつつ応じてくれるだろうという姑息な思惑も込めて。


 ギャルになった理由? 

 ……それは単純に俺の趣味だな。

 いや、俺がオタクに優しいギャルが好きなのは本当だったからさ。せっかくの機会だし、と調子に乗っちまったんだ。

 すまん康美。

 


 そうして方針が決まり原画&モデル制作の依頼をすることにしたんだけど、その依頼先として選んだのは俺が昔やっていたVTuberモデルを作ってくれた方だった。

 以下はその時のやり取りの記録だ。


「お久しぶりです真田先生。本多です」


「お久しぶりです。今回は依頼ありがとうございます」


「その節は、せっかく手の込んだ原画&モデルを作って頂いたのにすぐに活動休止してしまって申し訳ありませんでした……」


「いえ、私も見に行きましたがまだお若かったのにあの荒れっぷりじゃあ、耐えられなくても仕方ないですよ」

「そう言ってもらえると助かります」


「しかし今でこそVTuberは見た目と中身の乖離も魅力の一つとして認知されてますが、あの頃はまだそうでもありませんでしたね。特に見た目から既に男性なVが珍しかったこともあってか、本多さんの場合内外の差が殊更に叩かれてしまったのでしょうね」


「余計に辛くなるんでガチな分析は勘弁して下さい……」



 この人はイラストレーター兼3Dモデリストの真田昌信さん。

 親の仕事の関係で縁があって知り合った方。色々出来てイケメンという、天に二物も三物も与えられた人である。

 お前が言うな? いやほら、環境と能力はまた違うし……。



「それで今回はどういった依頼になりますか? 私に、ということは以前同様にVTuber関係ですか?」


「はい。今度はギャルの原画と3Dモデルをお願いしたいと思っています」


「ほう。となるとバ美肉ですか?」


「いえ、知り合いに「オタクに優しいギャル」になってもらおうかと思いまして」


「ちょっと何言ってるか分からないです」



 ――― 経緯説明中 ———



「なるほど。あまり我を出さないお知り合いの方に、配信を通して我を出してみて欲しいと」


「そういうことになります。それで3Dモデルなんですが、スリーサイズは88|(65)-58-92のFカップでお願いします」


「落ち着いてください。それ以前に今話を聞いた範囲ではまだその方の了承は得られていないようですが大丈夫なんですか? もしやってもらえなかったら以前に配信休止した時以上の金ドブ案件になってしまうのでは?」


「先生大分遠慮無くなってきましたね。知り合いもそんな感じで遠慮無い奴なんですすよ」


「どんな人なんですか……」


「なので今後はそんな感じの遠慮無い振る舞いで構いませんので」


「本多さんキモいです」


「そういう感じで大丈夫です」


「強いですね」


 そんな感じで和気あいあいと(?)話は進んだ。


「まあその知り合いの同意を取るのは多分大丈夫なので、是非お願いします」


「分かりました。本多さんがそこまで言うのなら恐らく大丈夫な方なんでしょうね。色々な意味で」


「ええ。面白い奴ですよ」


「もし配信が決まったら教えてくださいね。見に行きますから」


「よろしくお願いします」


「では具体的なキャラクター設定について詰めていきましょうか」


「はい。まずスリーサイズは88|(65)-58-92のFカップで……」


「それはもういいですから」


 こうして本原つぐみ(素体)は誕生したのだった。

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