第27話 服部ミヤビの胎動
「よし。話もまとまったことだし、配信予定はおいおい決めるとして、とりあえず酒井さんの分身となるアバターを見てもらうことにしよう」
そう言って案内されたのは、普段私が配信する防音室の隣の部屋。
防音室と同じような設備が揃っているようだけど、こっちは普通の部屋のようね。
「ここは普通の部屋なのね」
「元々防音室は一部屋しか作ってなかったからなあ。
でもまあよく考えたら俺んちなら多少大声出しても問題無いから、そもそも防音室自体わざわざ作る必要が無かったのかもしれないな。今更過ぎるけど」
「本当に今更ね……。
でも今後私と酒井さんが同時に配信する時は、片方防音室だと互いの配信の音が入ったりすることが無くなるから、結果的にあって良かったのかもしれないわね」
「確かに」
「そんな気軽に部屋と設備用意出来る本多さん凄すぎません……?」
軽く引いてる酒井さんを尻目に、PCを操作しアバターを表示する勝次。
そうして画面に映し出されたのは、本原つぐみをひと回り小柄にしたような白ギャル風少女。
耳回りに金のインナーカラーを入れた茶ボブヘアー、目元中心の薄めだけどメリハリの効いたメイク、つぐみと同じ制服をニーハイと腰巻きカーディガンで差別化。
そして何より、つぐみが豊満なのに比べこちらはその……ささやか。どことは言わないけど。
「へー、ミヤビって3Dだとこんな感じになってるのね。普段小さいアイコンでしか見ないからなんか新鮮」
「元々絵はつぐみと同時期に依頼してたんだけど、3Dモデルは康美が配信を続けるって言ってから依頼したんだ」
「あ、3Dモデルは元々じゃなくて後から依頼したのね。でもなんで?」
「前も言った通り俺は配信者として一度は挫折した身だけど、今度はバ美肉|(バーチャル美少女受肉)して配信再開してみたら面白いかも? って思ってたんだ」
「え、勝次がミヤビとして配信を? (想像中)うわぁ……!」
「いやいや。美少女から男の声が出てくるのって最初は違和感を覚えるかもだけど、慣れるとこれが案外気にならなくなるモノなんだよ。
まあつぐみがこれだけ大きくなった現状、今更俺がミヤビにバ美肉して配信したらとんでもない燃え方しそうだし、しなくて良かったかもしれないけどな。ははは。」
「こ、この娘が私が演じる娘……!」
緊張感の無いやり取りをする私たちの横で画面を真剣に見つめている酒井さん。
反応がいちいち初々しくて可愛いわね。もっとイジりたい……ハッ、私は今何を考えて……!?
「それで酒井さん、ちょっとここに座ってみて?」
「え、あ、はい」
「それでちょっと手を振ってみて?」
「はい……わ、動く! なんか不思議な感じ……。
笑顔も可愛い。これが、私……!?」
「すごいテンプレな台詞ね……」
この生物、反応がピュア過ぎる。
「それでこの娘……服部ミヤビの設定なんだけど」
「はい?」
「勝次、ちょっと待」
「服部ミヤビ、本原つぐみと同じ美川高校の2年生。つぐみと違ってミヤビは元々ファッション好きでギャルっぽい恰好をしている。ただギャル→ファッションではなく好みのファッション→ギャルっぽくなっている、だから周囲のギャル仲間とは微妙に順番が違う。性格はつぐみとはまた違ったベクトルの明るさがある。要領が良いと表現した方が良いかも? 漫画やゲームが好きだけど深く話せる友人が少ないから普段は表に出さずにいる。つぐみとはふとした切っ掛けでつぐみが偏見無くオタク趣味を楽しんでいる姿を見て急速に仲良くなった経緯がある。両親が金持ち&放任主義だから色々自由が利くけど、それを鼻にかけることもなく前述したように要領も良いから周囲には概ね慕われている。両親との仲は良いから忙しく留守がちな両親となかなか会えないのを実は寂しがっている。スリーサイズは78|(70)-58-85のAAカップ。これはモデルを依頼した時点で絵師さんと決めた数値だ。ところで光と闇、黒と白、大と小、不良と優等生といった風に世に相反する属性は色々あるけど、相反しているのにバディ的に組み合わせると逆に相性良く感じるのってなんでなんだろうな」
「「うわぁ、うわぁ……!」」
この男またやっちゃったよ。私だけならともかく酒井さんもいるのに。
「と、少し関係無い話もしちゃったけどこれが服部ミヤビの基本設定かな」
「そ、そうですか。半分以上入って来ませんでしたけど……」
「勝次ってたまに人の心というか共感性を失うわよね」
「そっか……」
こういう所もう少し反省して欲しい。無理そうだけど。
「まあそんな設定を頭の片隅に置きつつ服部ミヤビとして配信してもらうことになるからよろしくね」
「はい。なんか私とは違い過ぎるキャラ設定みたいで自信無いですけど……」
「大丈夫だよ。VTuberの設定ってのは設定を演じるんじゃなくて、中の人がその設定をどう自分に取り込んで動くかって方が大事だからね。
だからあまり気負わず、酒井さんは酒井さんのまま喋りたいことを喋ってくれればいいんだよ」
「そういうものなんでしょうか……」
「うん。だから心配し過ぎないで」
さっきの語りとの温度差よ。
なんでこういう気遣いが出来るのにああなってしまうのか。
「さて服部ミヤビとの顔合わせも済んだし、戻ってお菓子でも食べながら具体的な配信日時や大まかな流れについても決めていこうか」
「は、はい。うう、なんだか緊張感が……」
「先のことを考えると不安になるわよね。分かるわ。私もそうだったし。
でも今回は私も一緒に配信してフォローするから、大船に乗ったつもりでいて!」
「ありがとう、榊原さん……」
「……」
「あんたは気味悪い笑顔で黙ってこっち見てるんじゃないわよ」
そんな訳で配信日時を決め、大まかな内容を決め、ヌイッターでミヤビが初配信を行うことを告知し。
ついにYauTubeの服部ミヤビチャンネルにて初配信が行われる日を迎えたのだった。




