第2話 いろいろ決めよう
「じゃあ配信はするってことで良いんだよな?」
「そうね」
「3Dモデルは全身あるんだけど、初配信だし今回はwebカメラのトラッキングで上半身だけ動かす形で行こうと思う」
「そうね」
「康美は配信自体未経験だし、自分のやることに集中するためにも気にすることは少ない方が良いだろ?」
「そうね」
「当日の配信設定や画面の設定は全部俺がやるから安心してくれ」
「そうね」
「さっきから同じ返事しかしてないけど大丈夫か?」
「全然分からないからそうとしか言えないのよ。言わせないでよ恥ずかしい」
分かっていたことだけど、設定周りのことはやっぱり全然分からないわ。
「そうだ、ちょっと実際にやってみようか。康美、ここに座ってくれ」
「うん」
「じゃあちょっと動かないで。んでこの設定を合わせて……っと。よし、そしたらカメラの前で手振ったりしてみてくれ」
「もういいの? じゃあ、やっほー……わ、すごい。ほんとにそのまんま動く。なんか感動」
「おお、良い感じだな。これは本番が楽しみだ」
「配信してたって言うし、勝次本当にこういうの詳しいのね」
「まあな……そういえば配信してた時「モデルの動きだけなのになんかキモい」みたいなコメントされたこともあったなあ」
「えぇ……」
こいつ配信に辛い思い出しか無いの?
「まあ機材に関する細かい部分は俺に任せてくれればいいよ。とりあえず最初の配信だし、お披露目&雑談で短めに済ませることにしよう」
「そうね。何話そうかしらね」
「まず自分の紹介と、配信を始めた理由、これからどういう活動をしていきたいかとかかな……あ、大事なこと忘れてた。この娘の名前どうする?」
「うーん……どうしてもこの名前が良い! って希望も無いし、どうしよう?」
「そうだな……リアルの名前をもじるのもちょっと嫌だし、オリジナルで考えるのもピンとこないし……そうだ。俺とお前の名前を合わせるとかどうだ?」
「あ、それなら丁度いいかも。そうなると……榊原康美と本多勝次で『本原つぐみ』なんてどう?」
「おお、それっぽくていいじゃん。それで行こう。よろしくなつぐみ」
「リアルで呼ぶな」
純粋に恥ずかしいのもあるけど、下手にリアル持ち込むとふとした瞬間に言い間違ったりしたりとか、いずれ私という存在を侵食してきそうで怖いのよね……。
「あとはVTuberとしてと言うかこの娘自身の設定だな。一応今パッと思いついたのを言ってみても良いか?」
「お願い」
「本原つぐみ、私立美川高校の2年生。ファッション好きな姉がいてその影響でギャルっぽい恰好をしているけど、実はファッションにはそれほど興味が無い。でも恰好だけはギャルっぽいからギャルグループに所属してはいる。そのせいで微妙に話が嚙み合わないのをちょっと気にしているが、根が明るいからみんなに慕われている。ゲームや漫画にはそれほど詳しくないが嫌いという訳では無いし、何か一つの物事に集中するのが得意だから何ならオタク趣味との相性は良い。配信は友達の一人の勧め&協力で始めたってことにしようか。あ、ちなみにスリーサイズは88|(65)-58-92のFカップ。他は即興で考えたけど、スタイルに関してはモデル発注の時点で絵師さんに依頼してあった設定だな」
「うわぁ……うわぁ……!」
本当にドン引きするとキモいとすら言えなくなるのね。初めて知ったわ。
「この辺の設定については見える所にカンペとして貼っておくから、困ったら見ると良い。まあVTuberには『普段の姿が本来の設定と乖離している』というお約束もあるから、あまり気にする必要は無いかもしれないけどな」
「流石に最初は守ろうとは思ってるよ?」
「うむ、その意気や良し。まあ初配信だとテンパってそれどころじゃなくなるかもしれないけどな」
「そうね……」
一体何人が来てくれるかは分からないけど、正直不安かも。
「配信サイトはライブ中心ならTwitchoを検討してもいいけど、まずは無難にYauTubeで良いかな。俺もそこで配信してたし」
「それ逆に縁起悪くない? 悪い思い出しかないんでしょ?」
「過去は過去、現在は現在。それに今回配信するのは俺じゃないし」
「つよい」
「よし、じゃあ後は細かい部分を詰めていく感じかな」
「そうね……あー、なんか緊張してきたかも」
「大丈夫か?」
「まあやるって言ったからにはやるわよ」
「その意気だ。そして極限状態で引き出されるであろう、康美の内に眠る真なるギャルを俺に見せてくれ」
「何言ってんの?」
こいつたまにこういうよく分からないこと言うのよね。
「よし、じゃあ初配信の日を決めて、YauTubeにチャンネルを作って、ヌイッターに本原つぐみのアカウントを作って、初配信を宣伝して……忙しくなるぞー」
「一人で大丈夫? 私も何か手伝えることある?」
「いやこのくらい大丈夫だよ。康美は配信のイメトレをして本番に備えてくれ」
「う、うん」
そして初配信の日時を一週間後の夜と定め、いよいよ本原つぐみが始動することになるのであった。
……が。
本原つぐみの「ママ」である絵師兼3Dモデリストの方が初配信を宣伝してくれたり、各方面に宣伝してくれる勝次独自のツテがあったりしたらしく、初配信を前にしてYauTubeの「本原つぐみチャンネル」の登録者が500人を突破する事態になってしまっていたのだった。
どうして……。