第16話 まさかのお誘い
「おい見ろよ康美。YauTubeチャンネル登録者数が8000人を突破してるし、ヌイッターフォロワーも20000人を突破してるぞ」
「もしかしてその構文気に入ってる?」
夏休みが終わって少し経った頃。
いつものように勝次の家でダラダラしながら、ここしばらくの「本原つぐみ」の状況について二人で振り返っていた。
「ゲーム実況に同時視聴に雑談。なんだかんだ配信バリエーションも増えてきたわね」
「そうだな。今後も安定して登録者を増やしたいなら『〇曜日は△△をやる』みたいに配信スケジュールを組んだ方がいいんだろうけど……康美はそこまでキッチリやりたい訳じゃないんだろ?」
「そうね。最初に配信した時もそうだったけど、事前告知はするにしろやってみたいことを好きな時にやるっていうスタンスは変えたくないわね」
「だよな。なら今まで通りやっていこう」
「うん」
この時はそんな風に気楽に考えていた。
そう考えていたのよ……。
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それから三日後、「すぐに来てくれ」という勝次からのLINNEを受け勝次の家に向かっていた。
要件だけのメッセージとか珍しいなーと思いつつ家に着くと、ドアを開けるや否や待ち受けていた勝次に部屋へと引っ張られていく。
「ちょ、ちょっと。どうしたのよ急に」
「受けるか受けないかは康美に委ねる。とりあえず来てくれ」
「ま、待ってよ、こっちにも心の準備ってものが……」
部屋に入るとPCの前に座らされる。
「え? PC?」
「ああ、本原つぐみのヌイッターに一つDMが来て、これはすぐ伝えなきゃと思ってさ。急に悪かったな」
「何事かと思ったわよ」
強引な振る舞いにドキドキしてたのを隠しつつPCに目を向けると——
「コラボのお願い、差出者は……Freak’S MATE!?」
「そう。Freak’S MATE。通称エ〇ゲの兄ちゃんたちだな」
「言い方」
『Freak’S MATE』通称FSM。
キレがありつつもどこか安心感を覚えるようなラップが特徴的なラッパーのトーサカ。
厚みのある甘いボイスが特徴的なボーカルのサンジョー。
そんな二人のVTuberで構成される音楽ユニットである。
結成当初は注目されず苦労した時期もあったものの、とある切っ掛けで大バズし今やYauTubeチャンネル登録者数30万人を超える人気VTuberとなっている。
……が、曲や歌が素晴らしいのはもちろんだが、この二人の特徴は何と言っても「オタク文化への造詣の深さ」であろう。
定期的に様々なテーマに沿った雑談動画を上げているFSMだが漫画やゲームなどサブカルに関する話題を取り上げることが多く、しかも言葉選びやあるあるネタの挟み方などが巧みで、いずれの動画もそれに通じている人間から見ても思わず唸ってしまうような面白さというね。
ちなみに企業系VTuberなのだが、最初から中の人を公開しているという珍しいVTuberでもあったりする。
「FSMの動画は私もよく観てるけど、一体どうして本原つぐみにコラボ依頼を? 自分で言うのもなんだけど規模が違い過ぎない?」
「そこに書いてある通り今度配信で『バトル漫画大好きVTuber』って企画をやるらしいんだけど、本原つぐみの初配信で刀牙やケンバンについて語っただろ? それをトーサカさんが見て推してくれたらしいぞ」
「へー。よく見てるのねえ」
「それで返事どうする? 言っちゃなんだけどこっちとあっちじゃチャンネルの規模が大違いだし、多分普段の配信とは文字通り桁違いの視聴者数になると思う。アウェー環境になるかもしれないし、もし不安なら——」
「出るわ」
「断っても——って返事早!」
「だって好きな作品について語れる人が集まるってことでしょ? まさに私がやりたいことじゃない。いやー何話そうかしら」
「……ほんとそういう所の決断は早いな」
テンションを上げ始める私に苦笑する勝次を尻目に、即日二つ返事でコラボ参加の返答を送るのだった。




