番外編 胡蝶之夢
———あれ、ここどこだ? 俺さっきまで家で康美と本読んでたよな……?
なんか女の子の部屋っぽい雰囲気がある部屋だけど、少なくとも俺の部屋じゃないな。
……っと、誰か来る?
「(ガチャッ)あーいいお湯だった」
や、康美!? 風呂上り!? パジャマ姿!? パジャマ姿ナンデ!?
……って、ここ康美の部屋か! しばらく来てなかったから全然ピンと来なかったな。
……いや違うだろ! なんで俺が康美の部屋に居るんだよ!
「あー疲れた。今日はさっさと寝ちゃおっかなー」
うわ、こっち来る! というかなんで俺が居るのに全然動じないんだよ!
……俺を異性として見てないからだったりしてな。ははは。
笑ってる場合かよ……。
「ふう……(ギシッ)」
あ、ここベッドなのか。
というかそれどころじゃなくて気付かなかったけど、この視線の低さや身動きの取れなさから察するに、どうやら俺は康美のぬいぐるみだとか抱き枕的な物になってるみたいだな?
なるほどなるほど。完全に理解したわ。
これから俺が死ぬということをな。
「んー……おやすみー……」
はい、やっぱりな。俺|(が憑依してる(?)何か)に康美が抱きついてきたわ。
うわあああああ! 柔らけえええええ!!!! 風呂上がりのいい匂いがするううううううう!!!!!!!
この体|(?)が動かなくて良かったよ。こんな状況でもし動けてたら、どうなってたか分かったもんじゃねえわ。
動けてても手出せないだろうって? やめてくれその言葉は俺に効く。
「すぅー……すー……」
うわぁ、寝顔可愛いなこいつ。
……とんでもない役得|(?)だけど、この光景をこんな形で見ることになるとはなあ。喜べばいいのか悲しめばいいのか。
てかなんか俺も眠……く……。
——————————
「……、……次、勝次ってば」
「……ん? 康美? 寝てたんじゃ……?」
「何言ってんのよ。居眠りしてたのは勝次の方でしょ、全く。今日は帰るわね」
「あ、ああ。すまん。ちょっと寝ぼけてたみたいだ」
「ふふ。いいわよ。じゃ、また明日ね」
「ああ、気をつけてな……あ、そうだ康美」
「ん?」
「康美って抱き枕使ってる?」
「? ううん?」
「部屋にぬいぐるみ飾ってあったりする?」
「昔はあったけど今はアクスタくらいしか無いかな」
「……そっか。ありがとう」
「? 変な勝次」
アレは不思議な体験とかじゃなくて、単なる夢|(妄想?)だったかあ……。
いや! 諦めるな! 夢なら正夢にしてやればいいんだ!
————— 後日 —————
「康美ー、勝次くんから荷物が届いてるわよー」
「勝次から? どうしたのかしら……って、抱き枕とクマのぬいぐるみ?
……っとメッセージカードが入ってるわね。なになに……?」
『康美へ、突然すまん。
ウチの系列会社で抱き枕を開発したんだけど、それのモニターになってくれ。もちろんその抱き枕はタダで、後日使用した感想を教えてくれるだけでいいからよろしくな』
「ふーん、急な話ね。まあいいけど。……続きもあるわね」
『それとこのクマのぬいぐるみは癒しの相乗効果を狙っての物らしい。
抱き枕を使う時に「枕元にぬいぐるみを置いてあるとき」と「ぬいぐるみを置いてない時」で睡眠の質に変化が出るかもみたいんだってさ。
だから置いたり置かなかったりしつつ何日か使ってみてくれ。頼んだぞ』
「注文が多いわね。まあいいけど」
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ふっふっふ。モニターの件は品物を康美に受け取らせる&使ってもらうための真っ赤な嘘。
だが実際に物が届いている以上康美がそれを疑うことは無いだろうし、あいつは律儀だから絶対に使ってくれるはず。
これで準備は整った! 夢よもう一度!
……だがその後、康美との添い寝の夢を見ることは二度と無かったのであった。
もう一度夢を見るためじゃなくて、現実にするための努力をすべきだったって?
やめてくれ、その正論は俺に効く。




