番外編 幼馴染と〇〇〇専門店に行く話
その日の講義が全て終わったある日の昼下がり。
勝次の家に行こうか? それともゲーセンにでも行こうか? なんて考えつつ帰り支度をしていると、同じく講義終わりらしい勝次がやってくるのが見えた。
「お疲れ康美。今日の講義終わりか?」
「うん。勝次も?」
「ああ。……あ、そうだ。康美これからヒマか?」
「まあね。これから何しようかなーって思ってたところ」
「じゃあ丁度いいな。実はこないだ面白い店を見つけたんだけど、一緒に来ないか? 多分康美なら気に入ると思うんだ」
「ふーん。良いわよ」
「よし、じゃあ行こうか。ちなみにその店なんだけど———」
「ストップ。勝次がそこまで言うなら期待を裏切ることは無いだろうし、行ってからの楽しみにしたいから言わなくていいわ」
「そうか。なら楽しみにしててくれ」
そうして勝次に案内されて行ったのは、電車で二駅分ほどの所にある小ぢんまりとした店舗だった。
「『太平書店』? この感じは古本屋さん?」
「ああ。まあまずは入ろうか」
促されるままに入店した私を出迎えたのは———
「う、わぁ……!」
「どうだ?」
「すごい……! こんなに沢山の『攻略本』初めて見た!」
「そう。ここは『攻略本の専門店』なんだ」
7~8畳ほどの売り場内を埋め尽くすように所狭しと並べられた本棚に、ギッチリと収められた攻略本の数々。
予想もしていなかった状況にすっかりテンションが上がってしまっていた。
「FCにSFCにPCEにMD……ハードごとに整理されてる上にその中でも更にあいうえお順で並べられてるのね。これは便利だわ」
「ジャンル別分類じゃないのか? とは思ったけど、時代が進むにつれて複数の要素を含むジャンルとか言ったもん勝ちなジャンルとかもあるからなかなか難しいのかもしれないな。あとどう見てもSTGなのに公式はRPGと言い張ってるゲームとかもあるし」
「ふふふ。確かにね」
「よし、じゃあレジ脇のプレミアコーナー以外は大体立ち読み可みたいだし色々見て回ろうか」
そうして私たちはウキウキしながら物色を始めるのだった。
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「これ黒本じゃないか? 実物初めて見たかも」
「『小数点以下の——』の元ネタね。実在したのねコレ。というか有名な割に意外と値段は高くないのね」
「買っていくか? ヌイッターとかで『小数点以下の元ネタ初めて見た!』って画像付きでツイートしたら500RTは固いと思うぞ」
「リアルな数字出さないでよ」
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「あ、アイテム図鑑だ」
「昔の某大作のやつか」
「うん。そもそも昔は装備やアイテムの具体的なビジュアルがゲーム内では分からなかったこともあって、こういう攻略本で初めてどういうものか知るなんてこともあったみたいなのよねえ」
「大バサミなんて、時計塔の鋏男みたいなものかと思ってたらまさかの片手武器だったもんなあ」
「攻略情報だけじゃなくて、そういう資料的価値も攻略本の魅力よね」
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「あ、これ一部界隈で有名なゲームだ。これ攻略本あったのね」
「攻略が一本道だからテンプレまみれになったというか、妙な一体感があって面白いんだよな」
「今度ゲームの方も準備して私も配信でやってみようかな」
「確かに『列車に逃げ込め!』で埋まるコメント欄見てみたいな」
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レジ脇のプレミア攻略本コーナーを見物する。
「さすがプレミア。四桁~五桁くらいの値が付くのね」
「というか有名なゲームの攻略本が多いんだな。てっきり誰も存在を知らないマイナーゲーの攻略本みたいなのが高いのかと思ってたよ」
「ゲーム自体の知名度×攻略本の情報量の多さ×希少性=破壊力……もとい値段みたいな感じなのかしらね。こういうのって少なくとも当時は『将来的に値が上がるだろう』みたいな意図で買った人は少なかっただろうし、好きだからそうそう手放さないのもあって値が下がらないのかもしれないわね」
「ゲームは人にプレイされてこそだと思うけど、こういうのを見てると様々な人に愛されてきた歴史を実感するようで、特にそれを実感する気がするな」
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結局入店してから二時間ほど滞在した後、各々気に入った攻略本を購入しホクホク顔で店を後にした。
「いやー楽しかったわ。また来たいわね」
「ああ楽しかったな。康美も気に入ってくれたみたいで何よりだよ」
「そういえばよくこんな店見つけたわね。散歩してる最中に偶然って場所でもないし、やっぱりネットとかで見つけたの?」
「いや、実はここ俺の店なんだ」
「は!?」
は!?
「いやあ、親父に将来のために一つ店を経営してみろって言われててさ。
飲食店みたいに忙しないのも嫌だし何の店やろうかなって思ってた時に、『そういえば家って攻略本はあんまり置いてないな』って気づいてさ。趣味全開でこういう店にしてみたんだ」
「ブ、ブルジョワ……!?」
「前にこの店舗で本屋を経営してたおじいさんが店畳むことになって、それを格安で引き継げたのも大きかったな。改装なんかもほとんど必要無かったし。
あと仕入れや商品管理の研修として親父の系列会社の研修として使ってもらうようにしたから、人件費があんまりかからないのも良いな。毎日研修で人が来る訳じゃないけど、そもそも趣味店みたいな感じだからそれに合わせて開店すればいいしな」
「割とちゃんと考えてた……でも研修でそんなことさせていいの? ボンボンの若造が勝手しやがってよお! とか言われない?」
「仕入れの値段調査とか在庫管理とか収支計算とか色々やることはあるし、案外ちゃんと実践的な勉強になってるから大丈夫。
それに開店時間を遅め&営業時間を短めにしてるし、客が来ない時は自習なりなんなり好きにしていいことにしてるから、結構人気あるんだぜ」
「なら良いけど……良いのかしら? うーん……」
「そんな訳だからこれからも遠慮なく利用してくれよな。あ、お代はちゃんと頂くぜ」
「それはもちろんだけどさあ」
そんな訳で私たちの新たなたまり場が出来たのだった。
本当にどういうことなのよ……。




