第11話 巨大プールを楽しもう
「まさか招待券がそんなとんでもない代物だとは思わなかったわ……」
着替えを終えプールへ向かいながら、隣を歩く勝次にチクチク嫌味を投げかける。
ちなみに勝次が普通にトランクスタイプの水着なのに対して、私はノースリーブでセパレートタイプのフィットネス水着。
色気は無いけど、ビーチの波打ち際でパシャパシャするくらいならともかく、今回みたいにそれなりに泳ぐ時はしっかりした格好しておきたいのよね。
私は誰に言い訳してるのよ。
「ごめんごめん。でも本当のこと言ったら康美は絶対遠慮するだろ」
「そりゃそうよ」
「でも別に俺が自腹切った訳じゃないし、行かなかったら期限が切れるだけだし。それはもったいないだろ?」
「まあ……」
「だからどうしても来てほしくてさ。許してくれよ」
「もう、しょうがないわね」
まあ私も本気で怒ってる訳じゃないけどさ。
「ありがとな。よし、じゃあ楽しもうぜ」
「切り替え早っ。もう、現金なんだから」
苦笑しながら通路を進む。
というか私も勝次もインドア派だから、二人とも肌真っ白でウケる。
そんな風に内心思っていると———
「おお!」
「わあ……!」
一気に道が開けたと思うと、巨大なプールがひしめく広大な空間が私たちを出迎える。
「すごいすごい! こんなの初めて!」
「その台詞……「ん?」いや、何でもない……」
「変なの。しかし本当にすごいわね。この流れるプール全長何百メートルあるのかしら」
「流れるプールの内側に色々なプールやスライダーみたいなアトラクションがあるから、流れるプールに漂いながら気になった場所に行くみたいな方法が良いかもな」
「それ良いわね。じゃあその方針でいこう!」
「テンション高っ」
そうして流れるプールを漂いつつ、波のあるプールやスライダー等気になった場所に立ち寄り、少し疲れたら温泉プールで休んだりしつつ。
夢中で遊んでいる内に気付くとお昼時になっていた。
「もう昼か。そろそろ昼食にするか」
「そうね。ってかフードコートの種類ヤバ。何食べようかしらね」
「せっかくだし色々食べたいから、ミニサイズ頼んで二人でシェアしない?」
「それ良いわね。じゃあ見に行こっか」
そうして色々見まわった結果、ラーメン、焼きそば、カレー、ハンバーガー、ピザ、ぶっかけうどん、ポテトをミニサイズで頼むことになったのだった。頼み過ぎでは??
「うっぷ……流石に食べ過ぎた……」
「ああ。まさかミニサイズがあんなに大きいとは思わなかったな……」
頼 み 過 ぎ で し た 。
「ミニサイズでも大きいとか普通はありがたいはずなのにね……。だからこの苦しみは罰。強欲と暴食の罪に身を委ねた私たちへ与えられた罰なのよ……」
「何言ってるの?」
満腹過ぎてよく分からないことを口走りつつ、休憩がてら私たちは少しの間プールサイドのビーチチェアに横たわることにした。
「しかし久しぶりってのもあるかもだけど、プール思ったより楽しいな」
「本当ね。思わず夢中になっちゃった」
「でも『配信のネタになればいいな』って思って来たけど、エピソードを具体的に話すと場所が分かっちゃうから逆に使いづらいかな?」
「まあ場所の名前は伏せるとして、施設内容とかから場所が分かったとしても身バレしなきゃ大丈夫でしょ。話す内容は考えなきゃだろうけど」
「それもそうか。とりあえず『全てが無料になる招待券』で来たってのは言って大丈夫かな」
「それ言っちゃいけない筆頭じゃない?」
「まあ世間的に公表されてるものでもないだろうし大丈夫だろ。『服部ミヤビからもらって一緒に行った』ってことにしようぜ」
「便利ねミヤビ……」
そんな風に駄弁りつつしばし休む。
「よし、腹も落ち着いたしそろそろプール巡り再開するか」
「そうね。まだ行ってないところもあったしね」
そうしてプール巡りを再開し午前同様に楽しみつつ。
気づけば空が赤みがかり始め帰る時間となり、心地よい疲労感に包まれながら私たちは帰りのシャトルバスに揺られていた。
「いやー、久しぶりにしっかり体動かして疲れたな」
「うん」
「でも楽しかったな」
「うん……」
「この感じだと二日後の祭りも楽しみだな」
「……」
「康美? ……はは。おやすみ」
バスの揺れに誘われて眠りに落ちつつ。
こうしてこの夏最初のリア充体験は幕を閉じたのだった。