第10話 巨大プールに行こう
巨大プール行き当日。
私はシャトルバスの出る駅前で勝次を待っていた。
今日の服装は白いワンピースにスポーツサンダルにつば広帽子という、ラフさと「それっぽさ」を両立した格好。まあ遊びに行くだけだしそんなに着飾る必要も無いでしょ。
私は誰に言い訳してるのよ。
そうこうしている内に勝次がやってくるのが見えた。
勝次はTシャツにジーンズか。当たり前だけどいつも通りね。
「来た来た。おーい勝次ー」
「あ、いたいた、康……美……?」
「どうかした?」
「いや、あんまり見ない恰好してて一瞬別人かと思っちゃって。というか八尺様みたい。ミニ八尺様」
「……確かに。まんまだわコレ。ふふふふふ」
なんかツボに入っちゃってしばらく笑っちゃった。
「ごめんごめん、冗談だよ。良く似合ってるよ」
「ふふ、ありがとう。しかし結構人が集まって来たわね。早めに来といて良かった」
「だな。混むのはともかくせめて座っておきたいしな」
「ね。……あ、バス来た。じゃ乗ろっか」
首尾よく席を確保できた私たちは、到着までの数十分間で改めてプールについて調べていた。
「地続きになった屋外プールに野外プール、それらを囲む流れるプール、複数のスライダー等のアトラクションに一休み出来る温泉プール。プール関連施設だけでも相当な大きさよね」
「ああ。それにプール用品を始めとした大規模なショッピングモールに、有名チェーン店も含む広大なフードコートまで。一日じゃ味わいつくせないほど色々あるな」
「しかしそんな所の招待券貰えるとか流石金持ちね。半端ないわ」
「はは。誉めるなよ」
「誉めてるのかしら……?」
そうこうしている内に目的地へ着く。
そこには……。
「う……わぁ! 広!」
「ホントだこりゃ広い」
郊外で周囲に何もないこともあり、地の果てまで続いているんじゃないか? と思わされるほど長く左右に広がる建物。
それを取り囲むように広がっている広大な駐車場。
そして入り口に向かう人、人、人。
デカい建物に多数の人。否が応にもテンションが上がってしまう。
「すごいすごい! 思った以上だったわ!」
「やっぱり直に見ると違うなー。よし、んじゃ入ろうか」
「しかし招待券があるとはいえ、どの入り口も混んでるからそれなりに時間は掛かりそうね」
「いや、大丈夫。こっちに来て」
「え?」
そう言うと勝次は入場ゲートから離れた案内窓口へ歩いていく。
「すいません、この券なんですが」
「はい……!? 少々お待ち下さい!」
そう言って受付の人が奥に下がってすぐに何やら偉そうな雰囲気のおじさまがやってきて、近くのスタッフ用入り口から応接室的な所へ通される。
「本多様ですね。この度はご来園頂きありがとうございます」
「はい。今日は楽しませて頂こうと思います」
「ありがとうございます。それではお二方ともこちらを装着して下さい」
そう言ってシリコン製(?)のリストバンドを渡される。
これ施設説明で見たわ。中の支払いとかの出来るICチップ入りのやつなのよね。
でも説明だとカラフルで種類もあったのにこれは真っ黒ね。
「施設内の品物や飲食物の購入はこちらで行えますのでお使い下さい。そちらの扉から出て頂くと男女それぞれの更衣室前の廊下に出ますので、更衣後に各施設をお楽しみ下さい」
「はい。ありがとうございます」
「それではごゆっくり」
一連の説明の後、再びスタッフ用通路のような場所を経て今度は更衣室前に案内された……が、平然としている勝次に比べ、私は想定外の事態に戸惑ってしまっていた。
「ねえ勝次! あの招待券って何だったの? どう考えても普通の対応じゃないんだけど!?」
「ああ。あれは無料招待券なんだ。入場料はもちろん、施設利用料金や買い物料金も全部無料になるやつ」
「は!?」
プールでかかる費用を持ってくれるって、そういうことだったの!?
「ブ、ブルジョワ……!?」
「何を今更」
いきなりとんでもない事実が明らかになりつつ。
こうして夏休み初のリア充体験は幕を開けたのだった。