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5 ウィローと会ったときのこと

*残酷な表現があります。苦手な方はご注意ください。

 こんどこそ、ウィローと会ったときのこと。

 たのしい話ばかりじゃないけれど、これもちゃんと書いておきたいんだ。



 ウィローは町にむかう山みちでたおれていた。ふだん、おれはそんなに人間に近いところに行かないけれど、その日はノイチゴさがしにむちゅうになって、うっかり気づいたらそこについてしまってた。


(ノイチゴさがしをしたことがあるなら分かるだろう。ふかいみどりの森の中にある、ほうせきのようにあざやかな赤。口の中で、プチプチはじけるように甘ずっぱい。たからさがしみたいで、見つけるたびにドキドキするし、ふかみにはまる)


 あわてて森のおくへもどろうとした時、山みちのそばの草むらで、なにか光ってるのが見えた。うっすらキラキラと、光のこながまうような。


 人間のおとしものかな、と近づいたら、手のひらほどの小さなフェアリーが土の上にころがっていた。光のこながまっていたから、しんでないとわかったけど、とてもひどくキズだらけだったし、気もうしなっていた。


 くわしくは書かない。書きたくないんだ。


 けれど、ほんとうにひどいキズで、いまウィローには2まいのうつくしい羽がせなかにあってキラキラ光っていて、おれはそのすがたが大すきだけど、けれど、ほんとうは羽は4まいあったと言えばわかるだろうか。2まいの羽は、ねもとからちぎられていて、ウィローはもう長くとぶことができない。


 おれなんかがさわったら、それだけでしんでしまいそうだった。でも、こんな山みちにすてるようにころがっているのだから、人間に見つかるのはよくない気がして、そっとカゴに入れて、丸太ごやへつれてかえった。




 キズだらけのフェアリーは、しばらく目をさまさなかった。いっしゅうかんくらいは、ねていたとおもう。


 そして目がさめるなり、おれをこうげきしはじめた。体は小さくても、さすがフェアリーだ。まりょくがとてもつよい。おれはよわいゴブリンだから、まりょくなんてなくて、やられっぱなし。


 こまかい刃をたくさんとばしてきたり、とっぷうでおれをはねとばしたり。いちばんこまったのは、丸太ごやのあちこちに火をつけたこと。森が火事になったらたいへんだと、おれはボロボロになりながら火をけして回った。


 あばれまわって、おれも、丸太ごやも、じぶんのこともキズつけて、気をうしなう。しばらくそんなことのくり返しだった。おれはフェアリーを見たのははじめてだったけど、こんなにあばれるのはおかしかった。


 正気じゃない。そのことはすぐにわかった。なにがあったのか、かんがえたくはなかったけど、おおよそ想像がついた。ひどい目にあう生き物は、もうさんざん見てきたのだから。


 フェアリーのくるったようなすがたには、見おぼえがあった。

 たたかう心をぼうそうさせる薬が使われていたんだろう。おれのいた群れでも、ヒマつぶしにさらってきた人間どうしをどちらか死ぬまでたたわせるあそびがはやったことがある。多分、そういうものだろう。


 くすりがぬけ切るまでのしんぼうだ、とおれはかくごした。







 やっぱり、いやなことをおもい出して書くのは気持ちがつかれる。だけどたくさん書いてしまう。みじかく書こうとおもっていたのに、こんなに書いてしまった。


 ウィローが手元にやってきた。

 きょう書いたところはあまりいい話じゃないから、よまなくてもいいのに。

 ずいぶん、ねっしんによんでくれている。

 じぶんが気を失っていたときのことはおぼえていないから、しんせんだと言っている。



 ウィローは人間につかまっていたころの話を、少ししてくれた。


 人間にはつかまえたフェアリーどうしを、たたかわせるあそびがあったらしい。やっぱりそうかと思ったけど、じっさい聞くのはいやな気持ちだ。


 大金もちの、ひみつのあそび。

 フェアリーはもともとおだやかなしゅぞくなのに、くすりを使って正気をとばし、互いをたたかわせる。だれのフェアリーがいちばんつよいか、きょうそうだ。


 ガラスのびんにとじこめて、わらってたのしむ。

 うつくしいフェアリーたちが、みにくくあらそって血をながすのをたのしむ。

 この世でいちばんだいじな生き物が、こわれるようすをながめてたのしむ。


(ウィローが、びんづめそうこに近づかない理由はこれだ。きっといやなことを思い出す。あかるいへやのなかで見るのは平気だけど、暗いそうこにずらりとならべてあるのがこわいと言う)



 おれには、わからない。

 そんなの何がたのしいんだ。


 でも、そういうことがたのしいってやつらの方がふつうなんだろうか。


 ゴブリンの群れでも人間をころしあわせて、ヒャアヒャアとみんなたのしんでいた。


 おれにはまったくわからない。

 おれが、ふつうじゃないゴブリンだから?

 みんながたのしいと思うものが、おれにはわからない。


 人間のことも、ゴブリンのことも、おれにはわからなくなって、ほんとうにじぶんが取りのこされたような気になってしまう。




 ウィローがそっとかたにのって、おれのかおをなでてくれる。

 ひんやりとして、つめたくて気持ちのいい小さな手。


「ごはんにしようよ。今日は、あまいおちゃがのみたい」


 ウィローが甘えるように言ってくれる。

 そうだ、今日は、マルメロのシロップを入れようかな。それとも、少し早いかもしれないけど、サルナシのジャムを味見してもいい。


 おれは、今日のお茶にどんなジャムを入れるかなんてことを考えるほうが、よっぽどたのしい。みんなは、つまらないと思うかな。

 

 気づいたら、もう日がかたむいてきてる。

 今日はここまでにしよう。


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