4 ダラスという名の行商人
ダラスのこと。
ダラスは、おれがここに住んでいることを知っている人間の男。行商人をやっていて、人間の町でいろいろ買いものをしてきてくれる。
ときどきこの丸太ごやへやってきて、おれのやいたクッキーをいっしょに食べる。森をぶらぶらさんぽする。町の話をおしえてくれる。畑しごとも手伝ってくれる。この森のことや、しょくぶつの育て方を、ダラスはとてもよく知っている。
今はもう、行商人とは言わないのかな。商売のうまくいったダラスは、今じゃ「豪商」というやつらしい(なんてむずかしいつづりなんだ)。
ダラスの背たけはおれの倍以上、少しやせててヒョロリとしてる。いつもぼうしをかぶっていて、大きな荷物をせおっていた。見た目よりも力もち。年ははっきり知らないが、わかくもないし年よりでもない。
森のなかで道にまよって、空きやのはずの丸太ごやをのぞいたら、おれがうたいながらクッキーを作っているのが見えたから、話しかけてみたんだと言っていた。
(丸太ごやにすんでいた人は料理が好きだったみたいで、たくさんレシピがのこっている。おれはそれをマネして作っている。さいしょに使ってたこむぎこも、のこされていたものだ。
じつを言うと、おれがこうやって文字をのこそうと思ったきっかけのひとつは、この人のおかげ。会ったこともないけれど、この人がのこしてくれた文字で、おれはおいしいものを作れている。
文字はただの線のくみあわせだというのに、書かれた文字のとおりにやると、ちゃんとおいしいものができる。これはすごいことだなってずっと思ってる。人間は、みんな知ってることかもしれないけど)
はじめてあったころ、ダラスは行商人もしてたけど、まものたいじもしてたらしい(つまりおれをたいじするヤツのこと)。ぶっそうなブキをたくさん持っていた。なんでもやるんだと言っていた。でも、おれがほかのゴブリンとちがって、人間をころせないとわかると、見のがしてやると言ってくれた。おれがクッキーとお茶をごちそうしてやったら、ずいぶん気に入って、ときどきたずねてくるようになった。
そして、森でとれない食べもの、塩とかたっぷりの油やこむぎこなんかを、買ってきてほしいとたのんでみると、ありがたいことにダラスはひきうけてくれた。
金はあるかときかれたけれど、もちろんそんなものはない。それで、おれはゴブリンのくすりを作ってわたしていた。何につかうのかは、きかなかった。
ダラスはおれのことを、ゴブリンにいさんと呼ぶ。ウィローのことは、おじょうさんと呼ぶ。
「行商人はいろんな相手に会ってわかれていくから、あんまり名前で呼ばないんだ」
そんなふうに言っていた。そういうものか。
せっかく名前をおしえたのに。少しざんねんだったけど、ゴブリンにいさんと呼ばれるのもわるくないなと思ってる。
◇
どうも書くことがあちこちに行ってしまう。
ウィローがのぞきにきた。
冬じたくの話はたのしそうによんでくれたけど、ダラスの話はそうでもなさそう。というより、ちょっとあきれてる。
「まものたいじなんて言ってる人を、よく家にまねいたわね」
「いや、でも、とってもクッキーを食べたそうにしてたから」
「なにそれ」
ウィローは、ふふっとわらう。
「それにダラスはね、まものたいじなんてしてなかったと思うわよ」
「そうなのか? たしかにそんなところを見たことはないけれど」
「でも、そうね。これはダラスのいいウソかしら。きっとあなたと仲よくなりたかったんだとおもう」
ウィローはそう言って、またすこしわらった。
きょう書くのは、ここまでにしよう。
やっぱり好きなことを書くと気分がいい。