34 さいごに
セドリック、さいごにひとつ、たのみがあるんだ。
この本を、王立としょかんに入れてほしい。いつかきみが話してくれた、すべての本をしまっておくという大きなとしょかんに。ずっとおいてもらえるとうれしいけれど、それはきみにまかせるよ。
ダラスの書いてくれた紙も、できれば一緒にのこしてほしい。本のとちゅうにはさんでおいた。おれもウィローもちゃんとよんで、のこそうって決めたんだ。
(これはふたりで話しあったわけじゃない。それぞれひとりでよんで、それぞれのこそうって決めたんだ。だから本当に大丈夫)
でも、王さまになったきみが、ゴブリンとなかよしなんてのはマズイだろうから、しばらくだれにも見つからない場所にかくしておいてくれ。そうだな、100年くらいは見つからない方がいい。きみも、ダラスも、おれもウィローもいなくなったころまで。
おれは、ウィローとずっと一緒にいたい。ダラスとセドリックにも、なんども会いたい。それでこの本を書いたんだ。
役立たずのゴブリンと、どれいのフェアリー。どの物語にも出てこない、小さなおれたち。森でしずかにくらすだけの話。ときどき、友だちふたりがやってくる話。
(ダラス、もうあんたのことを友だちって書いてもいいだろう。やっぱり、あんたのことは友だちだ。取引があってもなくても、おれはダラスが好きだから)
そうしてずっと先のどこかとおくで、だれかがこの本をよんでくれたなら、そうしたら、またおれたちは森でなかよくくらすことができる。
おれの大好きな森のくらし。
ウィローといっしょにすごす毎日。
ダラスとセドリックに出会える日。
その人の中で、なんどでも。
この本がよまれる前、おれたちは名なしのゴブリンとフェアリーだ。他のゴブリンやフェアリーとの見分けなんてつきはしない。別にそれはかまわない。自分のとおくにあるものは、ちがいなんて分からない。たいていのことは、そういうもの。
だけどもし、この本をよんでくれたなら、そしたら少しおれたちのこと、見えるかなって思うんだ。
森のしずかな小さな丸太ごや。
本を書いてるゴブリンがいて、そのとなりには小さなフェアリー。
おれは、本とりょうりが大好きで、小物を作って森でのんびりくらしてる、フロッグって名前のゴブリンだ。
となりにいるのは、川辺とリスが大好きで、たくさんえがおを見せてくれる、とてもステキなウィローって名前のヤナギのフェアリーだ。
ほら少しだけ、他のゴブリンとフェアリーとはちがったかな。役立たずとかどれいとか、そんなのだけじゃなかっただろう。
こうして文字にのこしておけば、だれかがよんだら、またあらわれる。ラトロがのこしてくれたレシピの文字から、おれが同じりょうりを作れたように。
あざやかな1日も、とぎれとぎれの思い出も、文字をなぞれば、だれかの中にあらわれる。おれのたいせつなウィローとダラスとセドリック、きっとどこかでまた会える。
たまたまひらいたページを、よんでくれるだけでいい。全部よまなくたっていいんだよ。そこには、どんなおれたちがいただろう。
(ダラスだってそうだった。いきなり本のさいしょとさいごをよむものだから、おれはすごくビックリした。でもよく考えたら、本は好きなところからよめる形をしてるから、そんなにおかしくもないんだろう。
だれかと出会うのと似てるかな。その人の一部分だけ、さいしょに出会う。それでもちゃんと、好きになったり、そうでなかったり、もっとたくさん知っていったりできるから)
もちろん全部よんでくれたというのなら、本当にすごくありがたい。とてもとてもうれしく思う。
なにか少しはいいものが、よんだ人にものこるといいが、そこまで望むのはよくばりだろうか。ねがうくらいは、いいだろう。
◇
やっぱり話があっちこっちにいってしまう。
ことばにするのはむずかしい。うまく書けないことも多かった。ゴブリンが文字をのこすのは、にあわないかもしれないな。でも、やっぱりおれは、この本を書いてみてよかったよ。
しあわせな日もいつかはおわる。それに気づいた時は、こわかった。だけどこうやって書いていたら、なくなったらどうしようって、そんな不安が少しまし。
別れはやっぱりつらいけど、しあわせな日があってよかったと、おれはちゃんとそう思えてる。
そして、かなしいこともたくさんあった。それもぜんぶ本当のこと。
もしものこしておいたなら、だれかがひろってくれるだろうか。
ガラスビンの中にいる、ウィロー。
いつかどこかで、きみがすくわれますように。
じゃあ、そろそろおしまいにしよう。
明日ははやくおきて、出発しなくちゃいけないから。
ウィローがいつものようにのぞきこんでくる。
おれの本、さいごまでよんでくれた。
とてもいいね、と言ってわらってくれる。
それから、明日はきっといい天気だよって、おしえてくれる。
ダラス、セドリック、たくさんありがとう。
よんでくれて、ありがとう。
それじゃあ、元気で。




