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32 とてもいいなつの日

 あれから、何年たったんだろう。

 ゴブリンは時間をかぞえることをしないから、おれにはよくわからない。ダラスにきいたら、きっとおしえてくれるだろう。


 あのあと、おれが大きなどうぶつを狩れるようになったかと言えばそんなことはなくて、あいかわらず魚や木の実を食べている。むしろ、魚をさばけなくなるかもと思ったが、そうでもなかった。


 あれは大きなできごとだったけど、おれがなにか変わったりしてなくて、それはちょっとホッとした。変わるとすれば、きっと日々の中がいい。セドリックが布をあらうのを、上手くなっていたように。


 おれとウィローは、森の中でずっと楽しくふたりでくらしている。森はまいにち姿をかえていて、一日だってあきることはない。うつくしくって、少しこわい。


 おれは、あんがい長生きみたいだ。

 いちど、ダラスに聞かれたことがあるが、おれはゴブリンが何年くらい生きるかよく知らない。

 たいていのゴブリンは、じゅみょうで死んだりしない。だから、思っていたより長く生きれるんだなって自分でもふしぎ。




 セドリックは大人になって、若くてりっぱな王さまになった。

 ダラスの商売はうまくいって、作った商会はとても大きくなったらしい。


「今じゃ、王さまよりも権力あるかもな。金の力はすごいんだぜ」なんて言っていたけど、ダラスがセドリックを大事にしていることは知っている。セドリックのために、商会を使っていることも。


 ダラスはおれの作った人形の小物いがいにも、たくさん商品をあつかうようになっている。それでも「やっぱりDWFの細工ものが、ダラス商会の原点なのさ」と言って、ずっと注文をつづけてくれていた。


 おれの作ったものが、おれの行ったこともないこの国のあちこちや、とおい国のどこかにあるなんて、とてもふしぎな感じがする。そこには、3人の名前と、ダラスが書いてくれたおれとウィローの絵もいっしょにある。


 それを見た人はなんて思うかな。やっぱりドワーフとトンボだっておもうかな。それでも十分だ。おれとウィローを目にした人がいると思えば、やっぱりおれはちゃんと存在してるとたしかなきもちになる。




 ダラスとセドリックは、時々この森にあそびに来る。

 ふたりいっしょの時もあるし、ダラスだけやってくることもある(ダラスは取引もあるから、わりとしょっ中やってきた。あたらしい本や食材も、昔とかわらずとどけてくれる)。


 この前の夏のある日、やってきたセドリックは「ごめん」と言った。おれはダラスの持ってきたスイカにむちゅうで、ちょっと聞きのがしていた。


「つぎの春、この森に大きな街道をつくるんだ」


 おれは、そうかと言ってうなずいた。

 べんりになるのは、いいことだ。ダラスの商売にもきっといいことなんだろう。チラリとダラスを見たが、ダラスは何も言わないで、そのままセドリックが話すのにまかせてた。


「この丸太ごやの場所も、とおりみちになる。だから」


 セドリックは、とても申し訳なさそうに言った。


「ここを出てほしいんだ」


 ああ、なんだそんなこと。

 そんなにあやまらなくっていいんだよ。

 おれは、まったく平気なんだ。ここは気に入っていたけれど、たまたまたどりついただけ。

 だから、他に行ってもぜんぜんかまわない。


 そう言うと、ウィローも「そうだよ」とうなずいた。


 セドリックは、それでもかなしい顔をしていた。

 たぶん、ここを残したいのは、セドリックなんだなってそれで分かった。そういうと、セドリックは、昔みたいに「うん」とうなずいた。


「じゃあ、いっしょに来るかい?」


 べつになんてことなく聞いたけど、セドリックはびっくりしたようにおれを見て、泣きそうな顔で大わらいした。いつか見た、ウィローの表情に似てるなって思った。そういえば、おれも前に、似たようなことがあった。


「フロッグ、ありがとう。だけどぼくは、王さまだから」

「セドリック、だいじょうぶか? 泣いてるのか?」


 おれはしんぱいになって、セドリックをそっとさすってやった。もうすっかり大人のせなか。さいしょにここへ来たときは、まだ子どもだったのに。


 それで思いだした。

 はじめてセドリックに、おれが名前をおしえた時と同じだなって。あの時は、おれの方が泣いていた。


 だから、セドリックはかなしいんじゃなくて、うれしいんだなって、おれにも分かった。


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