31 あとかたづけ
それから、セドリックはたっぷりのお湯をわかして、おれの体をあらってくれた。
おれはいろんなことで頭がいっぱいで、されるがままだった。血やいろんな液体でドロドロのおれは、すごく汚くてくさかったけど、セドリックはいやな顔ひとつしないで、自分の手やふくをよごしても気にしなかった。
ダラスがあわてて「オレがやるよ」って何ど言っても、ゆずらなかった。
これはぼくがやるべきことだと、セドリックはとてもしんけんな顔をしていた。
体をあらってもらうのは、とても気持ちよかった。あたたかいお湯に、心と体がほどけていく。涙はお湯とまじって、いつのまにか止まっていた。
セドリックの手が、おれの汚れをひとつひとつ、ていねいに落としていく。
ウィローもやってきて、とびちるお湯を体にうけていた。
「ぼくは一生わすれない。きみが自分の手をよごして、ぼくを助けてくれたこと。なのに、きみをおそれてしまった自分の薄情さと浅ましさ、決してわすれはしない。これからもぼくは、他人の手をよごす命令をくりかえして生きていくんだから」
「いいよ、そんな大げさな」
「大げさじゃないよ。王さまって、そういうものだろう。でも、きみがぼくを助けてくれたのは、本当にうれしかった。そういう気持ちも、わすれないようにする」
セドリックはずいぶん大人になってしまった。人が死ぬのを目のまえで見て、平気なはずはないだろう。そんなキチンとしたこと、言わなくってもいいのにな。だけどやさしい心だけじゃ生きていけないところへ、セドリックはもどるんだ。
セドリックはかしこいから、もうこの森のこやを出なきゃいけないとわかっていた。血まみれの死んだ王弟をつれて、城にもどらなきゃならないって。そうして王さまになると、自分でちゃんと決めていた。
本当は、もっと子どもでいてもよかったのに。おれたちと森でうたったり、おどったり、魚をつったり、ひるねしたり。そんな毎日をすごしながら、すこしずつ大きくなっていけばいいのに。
でも、かわいそうと思うのもちがうだろう。だから、おれは「じゃあ王さま、しっかりやらないとな」って言ってやった。セドリックは、うん、とうなずく。
ふと気づいて「布のあらい方、すっかりうまくなったなあ」って言うと、セドリックはまた鼻をすすって、うん、とうなずいた。
ダラスはもう何も言わないで、おれたちを、いや、たぶんセドリックをじっと見てた。自分の王さまのすがたをしっかり見るのは、とてもだいじなことだから。
このあとのきおくは、少しあいまいだ。なにせ、おれはグチャグチャのどろどろで、心もまだおちついていなかった。
お湯がとてもあたたかくて気持ちよくて、セドリックがていねいにおれをあらってくれて、ウィローも元気にしていて、そうだ、お湯をわかしてくれたのはダラスだったかな。せっせとお湯をわかしつづけてくれた。
それからみんなで、あとかたづけをした。かたづけ方はダラスがおしえてくれた。
まどをあけて空気をいれかえる。つめたい風が血のにおいをとばしていく。
血だらけで死んでいるモルドレッドを、ダラスとおれで外へ運び出す。とてもおもくて、引きずってしまいそうになる。「こわがらねぇで、しっかり体に近づけてもつんだよ」ってダラスにおそわって、がんばった。
外に運んだモルドレッドは、ダラスがワラでぐるぐる巻きにした。ダラスはなんでも、てぎわがいい。
床をそうじする。
ワラをもやして灰をつくり、水にグルグルとかす。すると、灰をとかした水がちょっとヌルヌルする。そのヌルヌル水で床の血をぬぐっていく。ダラスがわかしていたお湯をここでもつかった。血のシミとにおいが消えていく。
みんなでワイワイとそうじをしていたら、なんだかいつもに戻っていく気がして、おれは少しずつ心がおちついた。
床をゴシゴシこすりながら、ダラスが軽口を言う。
「にいさん、すげぇ強いんだな。いっしゅんマジでビビったよ。おじょうさんより強いかもな。ちょっと手合わせしたいくらいだぜ」
「いや、やめてくれよ。そんなことないし、さっきのはまぐれだし、ダラスとたたかいなんてしたくないよ」
おれがあせってそう言うと、ダラスはじょうだんだよってわらって言った。
ウィローも、ちょっとわらってた。
「フロッグは強いよ。だってわたしもこうげきしたことあるんだよ。でも、ちゃんと生きてるでしょ」
「そうか、そりゃすげぇな」
「でも、本当にすごいのは、力がってことじゃないから」
まあ、そうだなってダラスが言って、この日の話はこれでおしまい。
もしかしたら、おれは強くてりっぱなゴブリンになれたのかもしれない。
けれど、そうならなくてよかったって今でもそう思っている。




