3 冬じたく
ほんとうは、ウィローと会ったときのことを書こうと思っていたんだけど、これもあまりたのしい話じゃない。
文字にしようとかんがえると、その時のことをしっかりおもい出さなきゃいけなくて、けっこうしんどい。書きたくないことは、書かなくていいんじゃない? とウィローが言ってくれた。
じゃあ、きょうは冬じたくのことを書こうかな。
暗い話ばかりじゃ、よんでる方も気がしずむだろう。
今は秋のまん中ぐらい。
冬はまだ先だけど、あっという間に夜が長くなるから、うかうかのんびりしていられない。
冬になると、この辺りには雪がふる。たべものが少なくなるから、冬までにたくさんたくわえを作る。
おれは、なんでも食べられる。ゴブリンはたいていそうだ。ゴブリンにとっていちばんのごちそうは人間の肉だけど、おれはくわない。大きなどうぶつを狩ることもしない。たいてい、魚や虫やきのみやキノコを食べている。
魚や虫は大丈夫。ちゃんところして、食べられる。たぶん、しぬ時に声を出さないからだと思う。そんなことでおれは生き物をころしたり、ころさなかったりする。きっととても不公平。
ウィローは、雨水と、土にまじっているキラキラのカケラを少し食べる。自分でかってに集めている。
そのカケラを取っておくための小さな箱を作ってやったら、ウィローはとてもよろこんでいた。
ウィローは体も小さいから、そんなにたくさん食べたりしない。でも、おれの食べるものにはきょうみがあるみたいで、時々いっしょに食べる。とくに甘いものは好きみたい。
花のミツ。みつばちのす。じゅえきやくだもの。これも冬にはとれないから、秋までにあつめて保存する。
昨日と今日は天気がよくて、魚をたくさんつった。もってかえって、ひらいて、干す。こうしておけば、冬のあいだもながく食べられる。
さばき方はかんたんだ。
あたまを落として、ないぞうをとり出し、きれいに洗う。力まかせはだめ。ちゃんとホネと肉のあいだにナイフを入れれば力なんていらないし、ていねいにひらけばキレイに身がとれる。
やっぱり魚だったら、ぜんぜん平気でひらけるのにな。あたまをぶつんと切るのも、ないぞうをとり出すのも。ナイフをとぐのも好きだし、うまくやれる。切れ味がいいと、気分がいい。ちゃんとしたゴブリンだったら、同じように人間のこともさばけるんだろうか。
保存食を作るのは、たのしい。手間がかかるものなら、もっといい。
すぐに食べるわけじゃないたべものに手をかけて作るのは、よゆうがあって、とてもぜいたくな気持ちになる。半年もつたべものを作るとき、おれは、半年先も生きているやくそくを自分としてるような気持ち。
(それは自分をだいじにおもう気持ちに似てるねってウィローがいう。そうかもしれないな)
保存につかうガラスビンはたくさんある。
ここはもともと人間がすんでいた丸太ごやで、保存食をつめたビンがたくさんのこっていた。
おれがここへたどりついた時、やぬしはとうにしんでいて、くさりかけた肉がゆかにおちていた。それでもビンの中の食べものは、ぜんぜんくさってなくて、おれはそれでやり方をマネした。
(おれはゴブリンだから、くさった食べものでもほんとうは平気。だけど、くさってない方がおいしいから、おいしい方を食べたい)
シャルガのね ふうみ、ピリピリ
ゴーラのたね からい
ベイベイのは くさみけし
コショウのみ ふうみ、くさりにくい
アグラウス ほぞん用のすっぱいぶどう
それから、さとう、油、こむぎこ、塩。
さとうの作り方。
さとうを作るのは、とてもたのしい。
時間がかかって、とてもいい。
春、ウラの畑にアマダイコンをうえる。
秋がすすんで根がおおきくなったら、ひっこぬく。ちょうどもうすぐとれる時期。
とってきた根をこまかくきざみ、たっぷりの湯でしっかり煮つめる。
秋のふかくなった森の中で、たき火のそばにすわって、アマダイコンを入れたお湯が、ふつふつとわくのをじっとながめる。
火は見ていてあきない。いつもちがう形。おおきな炎はこわいけど、たき火の炎は安心する。お湯がわくのもおもしろい。アワがボコボコとうかびつづけるから、これもあきずに見ていられる。
森のあちこちの音をききながら、アマダイコンを入れたナベがぐつぐつ煮えるのをながめて、ぼんやり一日をすごす。
そうしてお湯がなくなると、ナベの底に、さとうのかたまりができる。
ちょっとかじると、すごく甘い。
こんなにさいこうな一日は多分、そうそうないだろう。
ノラヤギをさがす。
ノラヤギは、半日ほどあるいた草はらに群れがいる。ミルクがしぼれてとてもありがたい。とれたミルクをビンに入れて、ふりつづければバターができる。すこし塩を入れてやると、さいこうにうまい。
塩はもともと丸太ごやに、大きなかたまりがのこっていた。なくなったら、ダラスに町で買ってきてもらう。
こむぎこや油がたりないときも、ダラスに買ってきてもらう。ダラスというのは、おれがここにいるのを知ってる人間。
ダラスのことを、もう少し書こうかな。