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29 しゅうげき

*残酷な表現・暴力描写があります。苦手な方はご注意ください

 息が止まったみたいに、声が出なかった。


「……モルドレッド」


 セドリックが、むりやり声を出したようにつぶやいた。

 大男がうすくわらう。


 モルドレッド。王弟の名前。

 セドリックを、ころそうとしている人間。



 王弟は、よゆうのある動きでおれたち3人を見おろした。まずセドリックを見て、それからウィローを見た。


「なんてひろいものだ。こんなところでまた会えるとは思わなかった……」


「にげろ!」


 モルドレッドが言いかけたことばをさえぎったのは、ダラスの大声だった。

 ダラスは入り口からとびこんでくると、モルドレッドをうしろからつかまえようと体当たりした、ように見えた。



 ここから先は、いろんなことがいっぺんに起こったから、うまく書けるかわからない。

 

「ダラス=」


 まず、モルドレッドがダラスの長い名前をよんだ。

 ダラスはうごきをピタリと止めて、くるしそうな顔をした。モルドレッドは、ゆび一本もダラスにふれていないのに。


「つくばえ、うごくな」


 モルドレッドの命令と同時に、ドダンと大きな音を立ててダラスが床にたたきつけられ、もうピクリともうごかなかった。こや全体がゆれたみたいで、はずみでテーブルの上のカードがバラバラと床にちらばった。


 おれは、なにが起きたかわからなくて、でも、ダラスを助けなくちゃ、ウィローとセドリックを守らなくちゃとようやく考えはじめてた。


 ナイフ。

 そうだ、いつものナイフを取りに行かなくちゃ。台所まで行くよゆうなんてあるだろうか。いや、さっき、さとうづけの入ったビンがなかなか開かなくて、こじ開けようと使ったな。あの時、使った。だから、だんろの近くにおいてあるはず。

 


 次にうごいたのは、ウィローだった。

 ここに来たはじめの時みたいに、大きなまりょくをあつめてこうげきしようとした。


 モルドレッドがウィローにむかって、おれの知らない名前をゆかいそうに大声でどなりつける。


「うごくな」


 その名前を呼ばれ命令をうけたウィローは、ダラスと同じように動けなくなった。


「ウィロー?」


 おれがそう言ったかどうかわからないくらいに早く、モルドレッドは固まってしまったウィローを引っつかんで、近くにあったガラスビンの中へほうりこみ、ぎゅっと栓をとじてしまった。


「やめろ!」


 おれは必死にさけんで、ガラスビンをとり返そうとモルドレッドにとびかかった。



 ウィローはガラスビンがこわいんだ。

 あんな中に閉じこめられたら、きっととてもこわい気持ちになる。

 早く、早く出してあげなくちゃ。



 だけど、おれのことなど気にもとめずに、モルドレッドは思い切りおれの腹をけりとばした。

 おれはふっとんで、背中をかべにつよく打ち付けた。せきが止まらなくて口の中で血のあじがした。ないぞうが出そうなほどの吐き気がして、いしきがとびそうだった。


 モルドレッドは、けりとばしたあとのおれを見もしなかった。


「こいつを借りてきたかいがあった」


 そういうと、モルドレッドは左手にはめた古いうでわをとくいそうにかかげてみせる。

 古びたうでわ。見たことのない文字が、びっしり書かれていて、おれはあまり見ていたくなかった。あれはきっと、まほうのうでわ。名前をよんで、したがわせる。


 そしてモルドレッドは、ウィローを閉じこめたガラスビンを持ち上げてながめると、いやな顔で大わらいした。おれの知らない名前でウィローをよんで、ひどいことをたくさん言った。死ぬまで使ってやるなんて、ウィローはモノじゃない。


 それからまるでゴミみたいに、ガラスビンをゴツンと床にほうりなげた。動けなくなったウィローがビンのかべに打ちつけられて、何ども体がはねるのが見えた。


 おれは腹の中がチリリとあつくなって、目のまえがまっかになった。

 ふしぎと体の痛みがなくなって、早くウィローを助けたいってそのことばかり考えていた。



「さあ、セドリック」


 モルドレッドは、ゆっくりとセドリックの方を向いた。

 セドリックは、本当にゆうかんなことに、モルドレッドに向かってたたかおうとした。


 セドリックは、おれと、ウィローと、ダラスのいる場所をチラリと見る。きっと助けようとしてくれてると、おれには分かった。もう自分さえ、ころされようとしているのに。



 だめだ。セドリック。


 きみはとてもやさしくて、ゆうかんだけど、それじゃしぬ。にげてくれ。たのむから、にげてくれ。



 さけんだはずの声は、血の味がするうめき声にしかならなかった。


「めいよある死など与えるものか。そうだ、ちょうどいい。ここにいるみにくいゴブリンにおそわれ死んだことにしてやろう。最高にみじめなさいごだろう」


 モルドレッドがあざけりながら、セドリックに手をのばす。

 セドリックは、まほうをかけられてはいなかった。だけど、12才の男の子が、大きな大人に力でかなうはずもない。


 首を片手でつかまれて、床に引きたおされる。

 床にぶつかる大きな音。セドリックの苦しそうな声。にげようともがいていたけど、馬のりにされてしまって、動けなくなっていた。

 

 すらりと抜かれた、大ぶりの剣。


「さあて、さっさところしてやろう。このままいたぶるのもおもしろいが、あばれられてもめんどうだ。ゴブリンにおそわれたように、あとからみにくいキズをたくさんつけてやる」


 それを聞いて、おれは腹の底が、もえるみたいな気がした。


 たぶん、すごくおこっていた。


 

 おれに、たらめいなくふれてくれたセドリック。

 名前をよんで、わらってくれたやさしいセドリック。

 カードあそびをおしえてくれた、かしこいセドリック。


 床にころがっているダラスと、ウィローを閉じこめたガラスビンが目に入る。


 おれを対等にあつかってくれたダラス。

 おれのいちばんだいじなウィロー。


 ぜったい、ころさせたりしない。



 おれはだんろの側においてあったナイフを手にし、大きくとびはね、むちゅうで叫びながらモルドレッドにとつげきした。


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