27 3人での森のくらしつづき
秋のおわり。ホロウの夜。
森には年にいちど、ホロウの夜がやってくる。
この夜がはじまると、おれもウィローも外へ出ない。ぜったいに。森のいきものたちも、それぞれのねぐらでじっとしてる。
目には見えない、古い精霊たち。
ゴブリンやフェアリーや人間よりも、ずっと昔から森にすんでいるものたち。
「ホロウってなに? ほんとうにいるの?」ってセドリックは聞いたけど、目に見えないものはたくさんある。
それに、”ほんとうにいる”と言うにはむずかしいものが、この世界にはたくさんある。
たとえば、おれが気に入っている赤い表紙のうつくしい本。あのお話に出てくるドラゴンは、”ほんとうにいる”って言えるだろうか。いないと言ってしまったら、じゃあ、おれのあたまの中にいる、あのりっぱなドラゴンは一体どこから来たんだろう。
春や夏や秋や冬、うつくしいとか、おもいでとか。そういう形のないものは、とてもたくさんあるだろう。
そういうものたちに名前をつけるのは、人間のほうがとくいなはずだ。
見ることがなくても、さわれなくても、セドリックの言う”ほんとう”でなくても、そういうものがあると知っているだけで、世界はずいぶんちがって見える。
ホロウの夜がおわると、冬が来る。
冬になるとウィローはねむることが多くなる。
だからおれは、冬のあいだはひとりですごすことが多い。雪をながめたり、こやの本をよんだりしてる。でもこの年は、セドリックがいた。
冬のあそび。ソリすべり。
セドリックとふたりで、丸太ごやの本をせいりしていた時に、いろんなソリの作り方を書いた紙を発見した。外にはしっかり雪がつもっている。セドリックとおれはヒミツの設計図を見つけたように大さわぎして、さっそくソリを作ってみた。
おれはひとりじゃこわかったから、ふたり用のソリにした。さか道の上にソリを置き、おっかなビックリ、ふたりでソリにすわってみる。さいしょはゆっくり、足をつけながら少しずつソロソロと下っていく。でも、すぐにコツが分かって、思いきってスピードを上げた。
セドリックといっしょにすべる雪の中は、大声でわらってしまうくらいたのしかった。セドリックがうしろでしっかりロープをにぎっててくれるから、とても安心。ころんだって雪の上だから、そんなにいたくない。
おれたちをのせたソリは、風みたいに森の中をすべっていく。すべるソリの速さにこうふんして「ホウホウ!」とおれが声を立ててわらっていると、セドリックも「ヤアヤア!」と声を合わせてはやしたてた。風の音とおれたちの声がまじりあって、どっちの音かわからなくなる。
まっ白な森の中を、こまかい雪をまいたてながらすべっていくと、おれたちはもう、ゴブリンでも人間でもなんでもなくなって、ただきえるだけの風や氷のツブになったみたいで、やっぱりわらってしまうくらいに自由なきもちになった。
雪のかたまりにぶつかって、ふたりそろって、ソリごとゴロンところんでしまう。
しばらくふたりで雪の上でわらったあと、またソリを引っぱってさか道の上までもどっていく。
同じようにまたすべる。なん度もなん度もくりかえす。ときどき、オオジカがチラリとこちらをふしぎそうにながめていた。どこにも行かないで、同じところをグルグルすべるだけなんて、一体何がおもしろいんだろうって。
おもしろいに決まっている。友だちといっしょのソリすべりなんて、こんなにたのしいことはない。
もうひとつ、冬のあそび。雪がっせん。
いちど本でよんだことがあって、おれはこれをやってみたかった(ウィローはぜったいやらないし、ダラスも冬のあいだはここへは来ない。だから、これはセドリックがいないとできないあそび)。
セドリックとふたりで、わあわあ言いながら雪をぶつけあった。手はジンジンとつめたかったけど、体がぽかぽかしてたのしかった。おたがい雪まみれになって、おかしくってゲラゲラわらった。
こやにもどって、それでもまだわらいながら着がえていたら、ウィローも起きてきてあきれた顔でわらっていた。それから3人であたたかいお茶をのんだ。
あの冬のことは、今でもよくおぼえている。
今みたいにしずかにすごす冬は、おれ自身もゆっくり森の一部になっていくような気がして、それはそれでとてもいい。
だけど、あんなふうに友だちといっしょになって、一生けんめいあそんだりわらったりできるのは、やっぱりたのしいことだった。あの冬のきおくがあるから、おれは雪を見るたび、いつもあたたかな気持ちになる。何年たっても、今でもそうだ。これはとてもしあわせなこと。
はじめていっしょに雪あそびした、おれのだいじな友だちセドリック。セドリックも雪あそびははじめてだって言っていた。王子さまは、そんなあそびをしないらしい。意外だな。
セドリックはどうだろうか。
雪を見るたびおれが思っているように、あの冬を思い出してあたたかな気持ちになってるといい。おれは、そうねがっている。




