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24 補足紙(4)

 森の小屋で再会した”血まみれアン”は、ウィローなんて名乗って、随分おだやかな顔をしていた。俺に対しては敵意を向けていたけれど、昔に比べれば生ぬるいものだった。


 ぞっとしたのと、興奮したのと、残念な気持ちが一気にきた。

 

 お嬢さんは厳しい顔をしていたが、それが隣にいる醜いゴブリンを心配してのことだとわかって、こっち側に戻らせてやりたくなった。あの孤独で残忍な姿をもう一度見れるなら、なんでも良くなった。俺を今すぐここで殺して見せろと、煽る気持ちで頭がいっぱいになった。


 隣にいるゴブリン兄さんは、やけに得意そうな顔でお嬢さんを見て、へらへらしている。無性に腹が立った。こいつ、何も知らねえくせに。


 何より一目で分かる仲良しの二人を見て、俺は強烈に嫉妬した。それが怒りに変わっちまったんだってのは、あの時だってわかってた。


 俺が自分で手放したもの、二度と戻らない大切な何か。誰も知らない森の小さな丸太小屋で、仲良しの二人でいたのは、本当は俺とあいつだったはずなのに。



 それで、あんなことを言ってしまったわけだが、それはゴブリン兄さんが書いてくれてたな。でも、あんなに優しい物言いじゃなかった。もっとひどく、どうやったら相手をもっと痛めつけてやれるかって、戦いの中にいる時のような気持ちで散々しゃべった。俺は相手の傷つく台詞がよくわかる。ゴブリン兄さんが気を失って、目を覚ました後でさえ、俺はひどいことをいくつも言った。


 それをゴブリン兄さんがわざと書かなかったのか、それとも本当に忘れているのか、俺は知らない。だけどその後、三人でお茶をして、俺が謝って、微妙な仲直りをしたのは本当だ。だから俺は今でもこうやって、ゴブリン兄さんと取引を続けている。


(まあ、あんなにひどいことを言った俺と仲直りできるんだから、ゴブリン兄さんは本当に呆れるほどにお人よしだ。人じゃないけどな。あの時、散々ひどいことを言った俺をゴブリン兄さんが許してくれた時、俺はちゃんとしようと思ったんだ。今度は大事にしようって)




 ともかくその一番強かったフェアリーが、主人の貴族を焼き殺して逃げたんだから、一時期相当な騒ぎだったんだ。と言っても、公にできない部分が多すぎて、ただの失火として処理されてるけどな。


 話がそれたか? いや、それてない。あの事件で貴族連中は恐れをなして、妖精闘技は一気に廃れた。フェアリーを作れる魔導士も死んでしまったしな。


 フェアリーを売買していた大金や、妖精闘技に積まれた巨額の金は、それまでどこへ行ってたか。お嬢さんに焼き殺された貴族は妖精闘技の元締めで、そして王弟派の要でもあった。お嬢さんの脱走劇で、王弟は腹心の部下を失い、巨大な資金源を断たれてしまったってわけだ。


 あっという間に王弟は権力からの転落を始めた。そのまま王座争いから降りりゃ良かったのに、金と権力を自分のものだと思ってるやつは、そんな風には考えない。王弟は、目前にあった玉座を諦めるなんてできなかった。



 あとは雑な作戦だ。作戦というまでもない。

 王子を殺せ。それだけだ。

 ただ、それだけの命令が下りてきた。


 つまらねえなと思った。

 ゴブリン兄さんのクッキーが食いたいと思った。

 自分で商売やって一山当ててみたかった。

 初めてしゃべってみた王子は、生意気でおもしろかった。

 血まみれアンはもういない。

 俺は、戦うのに飽きていた。



 まあ、そんなことの積み重ねで、俺は一族を抜けて王弟を裏切り王子側についたんだ。それなりの代償は払ったが、取り返せる範囲だと踏んでいたし、実際そうだった。両目を焼かれそうになったのはちょいと焦ったな。ここが最初のデカい商談だって気合い入れて交渉したし、当然うまくいった。


 もちろん王子側にも影はいる。そいつらには「なんでお前戻ってきてんの?」なんて怪訝な顔をされたけど、自由になったんだから好きにしていいんだよって言ったら、それもそうだなって皆、納得した。


 影の一族は手足だから、自分で考えることはしない。その方が楽だし仕事も上手くいく。裏切り者を粛清しようなんてことも考えない。助けようとも思わない。命令が下りれば、奴らは一瞬の躊躇もなく俺の首を落とすだろう。俺が、ラトロにしたように。




 

 クッキーの焼けるいい匂いが漂ってきた。


 ゴブリン兄さんはいつの間にか外に出て、雪かきをしていたみたいだ。外から俺を呼ぶ声がする。何か手伝ってくれって言ってるな。今行く、と返事をしてやる。

 


 俺の話はこれくらいでいいだろう。


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