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22 補足紙(2)

 ここに紙を挟ませてもらう。

 俺がセドリックを連れてきた事情を、少し補足して書き残そうと思う。


 そういえば、この紙をどうするかはセドリック王にも関わるな。まずいことも書くかもしれない。だけどもし、ゴブリン兄さんが補足紙を残す選択をしてたなら、なるべくそのままにしておいてくれ。セドリックならなにか上手くできるだろう。


 

 もう一度書いておくが、俺はダラスだ。

 ゴブリン兄さんが書いていた通り、あの頃、俺は行商をしていたが、本業は別にあった。もちろん魔物退治じゃない。



 俺は、王家直属の影の一族だった。情報収集をしたり、邪魔な奴を排除したり、裏方で色々やるアレだ。隠密や影の人間が、表の顔として行商やってるのは、割とよくある。仕事柄あちこち行っても怪しまれないし、いろんな情報も入りやすい。


 影の一族は、王族の誰かひとりに仕えるよう命じられる。”(あるじ)”と俺たちは呼んでいるが、どうやって決めるのか俺たちは知らない。ただ、命に従うだけ。


 ”主”は複数の影を使うが、影にとって”主”は一人だ。だから、誰に仕えるかで仕事内容が大きく左右される。敵対的な人間を徹底的に排除したい奴もいれば、片手間に情報収集しかやらない奴もいたし、そもそも影を嫌う王族もいる。そういう奴が”主”になると、すごく暇になる。やることがない。


 俺は政治のことに興味はなかった。だから、誰が”主”になろうとどうでもよかった。王家直属の影となりゃ、自分の考えなんか持たない方が楽ちんだ。


 俺は王弟に配属された。配下になるまで、どんなやつかも知らなかった。王弟には思い入れも何もない。王弟は声が大きく力強くて自信家で、一見立派な主らしく見えた。でも、頭が悪くて欲望に弱く、そのくせプライドの高い男だった。まあ、扱いやすくはあったがな。


 俺はそこそこ才があった。人を殺すのもうまかった。罪悪感もない。これは、影の仕事をやる上で重要なことだ。情報収集にも長けていて、あちこち動き回るのも好きだった。


 俺はよく切れる使い勝手のいいナイフ。王弟は、便利なナイフを手に入れてご満悦。もちろん大勢政敵を殺したよ。



 ところで、元々この小屋に住んでいた奴のことも書いておいてやろう。こいつだけ、名無しなのは気の毒だ。ゴブリン兄さんも、こいつの残したものにずいぶん助けられているようだし、書いておいてもいいだろう。


 名は、ラトロ。


 ラトロは王弟に雇われた薬毒調合士だった。影の一族じゃないが、立場的には俺の同僚だ。協調性のないやつで、ご丁寧に道隠しのまじないまでかけて森の奥深くに引きこもっていたが、腕はしっかり確かだった。


 俺は攻撃に寄せた動きをするからしょっちゅう怪我をして、よく薬を作ってもらっていた。とてもよく効いた。毒の方は使ったことはないが、他のやつが仕事が楽だと言っていた。とてもよく効いたんだろう。


 お嬢さんは随分と怪しんでいたが、道隠しのまじないがかかっていても俺がここへ来れるのは、一度家主に招かれているからだ。単純な話だよ。


 ラトロは薬を取りに来た俺を、しょっちゅうこき使った。森の中からあれやこれやを取ってこいとか、畑仕事を手伝えとか。しかも文句が多い。うるせえなと思っていたが、あいつの知識はその後も何だかんだと役に立った。言い合いばかりしてたような気もするが、まあ、色々ありがたいことも多かった。


 そのうちラトロは、毒も含めて全ての品の受取人を俺に指名した。道隠しのまじないも、その時にかけ直したのだろう。今となってはここへ来れるのは、本当に俺しかいない。

 

 ゴブリン兄さんは、どうやってここへ来たんだろうな。未だに謎だ。まじないのちょっとした不具合か、それともラトロの残した気まぐれだろうか。ゴブリン兄さんのまとう孤独は、どこか少しラトロに似ている。



 そうして、ラトロを殺したのは、俺。


 王弟と揉めたらしい。ラトロを殺せと命じられ、俺はそれに従った。あの時、使ったナイフはラトロに刺したまま放っておいた。気に入っていたナイフだったが、ラトロは毒を使うから、あいつを刺したナイフを不用意に使いたくはなかった(それをゴブリン兄さんが拾って、大変重宝して使ってくれているというわけだ)。


 ラトロを殺した後、この小屋に来ることは二度とないと思っていたのに、必要な毒がないと騒ぎ立てる王弟に命じられ、俺はまたここへ来た。なんだか知らんが、王弟が言ってる毒を取りにきたんだ。


 だから、俺はここが空き家だって知っていた。そこにゴブリンが居座ってる。普通だったら、すぐ切り捨てて殺している。話しかけたりなんか絶対にしない。


 だけど、今でもはっきり思い出せるが、小屋のあたり一面に、めちゃくちゃいい匂いが漂っていた。香ばしくて甘くて、絶対美味しいだろっていう懐かしい匂い。当のゴブリンはウキウキと体を揺らし、鼻歌まで歌いながら、菓子が焼けるのをのんびり待っている。それに、俺はもうあの頃には、戦ったり殺したりが面倒になり始めていた。


 それで気まぐれに話しかけてみたら、あんまり間抜けなお人好しだし、ゴブリンなのに人を殺せないと言うし、焼き菓子とお茶がびっくりするくらい美味くて俺はすっかり愉快になった。ゴブリン兄さんの焼いてくれる菓子は、いつもラトロの作ってくれた焼き菓子と、全く同じ味だった。



 王弟には、道隠しのまじないがおかしくなっていて、調合師の小屋は見つからなかったと嘘をついた。罵られて懲罰を受けたが、それだけだ。王弟は使えるナイフを捨てたりしない。


 王弟は強硬路線。

 隣の国を侵略して領土を広げようと考えている。


 王子は融和路線。

 貿易で国力上げようって考えだ。


 俺は行商人としてあちこち他の国を旅したからわかっていた。この国は、そんなに強くない。それに、土地なんてものには限りがある。王弟の言ってることは、隣の土地を奪って広げてそれだけだから、単純で面白くねえなって思ってた。足し算はできるが、掛け算にはならない。俺はもっと、でかいものが見たかった。戦うのもいい加減飽きてきた。


 それに、ちょうど行商の仕事がおもしろくなり始めてた。これ、王子側についた方が、俺は楽しく生きられるんじゃねえのって。こっから商売人として成り上がった方が、面白いんじゃないかって考え始めてた。


 そんで、敵陣視察と言いながら王子をこっそり観察してたら、これがまた頭がいいし、俺の考えとも近かった。まだ子供だから未熟なとこも多かったけど、これはいい王様になりそうだと思ったわけだ。


 とは言え、俺の主は王弟だ。王弟はロクな奴じゃなかったが、普通の王様をやるくらいならできそうだった。あの頃はまだ、それでもいいかと思っていた。


 でも、色んな歯車がずれたんだ。

 そのうちの一つが、あのお嬢さんのやらかしたことだった。


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