20 王子さま
男の子のキズはそこそこふかく、血がたくさんながれていて、ほうっておいたら死ぬかもしれなかった。生き物は、おどろくほどカンタンに死ぬ。よく見れば、少しねつもあるみたいで、呼吸もはやい。
ダラスは手なれたようすで、男の子のキズを手当てしていった。
ゴブリンのくすりを、ちょっとどうかと思うくらい、たいりょうにキズへふりかける。大きなキズをためらいなく、手早くぬい合わせる(おれはこわくて、まともに見れなかった)。そのあとは、とてもていねいに布をまく。手当てがおわると、血はきちんと止まった。
おれのベッドにはこんでもらう。もともと人間用のベッドだから、小さいなんてことはない。
それからダラスは、ふところから小さなにじいろのビンを取り出すと、ゴブリンのくすりとまぜて、男の子の口にながしこんだ。本当にてぎわがいい。おれは、きれいな水でしぼった布で、男の子の汗をふいてやった。
ひとまず手当てがおわったようで、ダラスはふうっと息をついた。
「それ、なんだい?」
おれはさっきの小ビンをさして、聞いてみた。
「これか? ルルファの涙、ってくすりだよ。ちょっと値段はたかいが、さいきん人気の商品さ。これだけでもいいくすりだが、ゴブリンのくすりにまぜてつかうと、いやしの効果がかくだんに上がる。って、まあ質のいいゴブリンのくすりはもう出回ってないけどな」
ダラスは少し肩をすくめ、キラキラ光るにじいろの小びんを「ほら」と言って手わたしてくれた。
「……これ、ヌマチイボガエルのよだれじゃないか?」
おれがそう聞くと、ダラスはつかれた顔でニヤリとわらった。
「ああ、そうだよ。だけど、そのままの名前だと、気味がわるいってひょうばん悪くてな。おれが商売用に名づけたんだ」
「なるほど」
(さすがダラスは商売がうまい。ルルファというのは、いやしの女神の名前だった。それにしても、名前がかわるだけでイヤなものでも平気になれるなんて、人間のかんがえ方はおもしろい。でも、それって逆もあるんだろうな。
そうそう、ゴブリンのくすりは、こんなふうに本当にいろいろと使えるんだ。いろんなくすりの元になる。もちろん、毒の元にもなる)
「そうだ。今、まだ追われてるのかい?」
「ああ。だけど、もんだいない。丸太ごやにかかった道かくしのまじないが、まだきいてるから、ここは安全だ」
「そうか。なら、あんしんだ」
「だけど、そのしつもんは先に聞いたほうがいいと思うぜ? きれいな小ビンなんかに気を取られたりしないでさ」
まったくそのとおりだ。
いつの間に出てきていたのか、ウィローのおどろいた声がした。
「なんで、あなたがこの子をたすけたの? ころそうとしてたんじゃないの?」
ウィローがびっくりした顔をして、ダラスを見ていた。ダラスは、バツのわるそうな顔。
「まあ、いろいろあったんだよ」
おれはウィローを肩にのせて、男の子をのぞきこんだ。
ダラスが、この子をころす? 今、たすけているじゃないか。
男の子はまだあらい息をしていて、いしきのないままだったけど、さっきの手当てを見ていれば、きっとかいふくするだろうっておれは思ってた。
おれはぜんぜん話が分からない。って顔をしていたら、ダラスはそれに気づいてくれて、にがわらいした。
「このぼっちゃんは、王子なんだよ。この国の王子さまだ」
おれはおどろいた。王子さまなんて、本の中でしか知らない。
たいていの人もそうだろうけど。
「ほんとか。それなら次の王さまじゃないか」
「ああ、そうだ。でも王さまになりたいやつは他にもいて、この子をころそうとしてんだよ。だから、しばらくかくまってくれないか」
もちろんいいとも、とおれはこたえた。
王子さまがめずらしかったのもあるし、ダラスのたのみだし、それに子どもをころすなんて、やっぱりかわいそうだと思った。
ダラスはこれまでのことをくわしく説明してくれたけど、むずかしい話やこんがらがったことが多くて、おれにはうまく書けない気がする。
男の子の名前は、セドリック。年は12才だったかな。王位けいしょうしゃの1番目。今じゃ、もうりっぱな王さまだけど、あの頃はおれより少し高いくらいの背丈で、大人と子どもの間くらいだった。
王位けいしょうしゃ2番目の、王さまの弟にころされかけた。
セドリックがしんだら、王弟が王さまになれるから。
ダラスがこの男の子をたすけたい、ってことだけ分かればいいだろう。




