2 役立たずのゴブリン
おれは役立たずのゴブリンで、群れからはなれて森の中でくらしている。
ゴブリンなら当たり前にできることが、おれはできなくて、群れにいたら、きっところされてたからにげ出した。
大声でどなるのも、けんかするのも、人間をおそうのも、できなかった。泣きさけぶいきものの命が消えるしゅんかんが、とてもこわい。
狩りも、しゅうげきも、身がすくむ。
できて当たり前のことが、おれはできなかった。
おれは、ゴブリンにとって、だいじななにかが欠けている。
(これをよむ人間にはあまり気分のいい話じゃないだろうけど、もう少しだけゴブリンのことを書いておく。よみとばしてもいい。だいたい知られているゴブリンの話だとおもうから)
ゴブリンは、人間をたべる。なんでってこともない。むかしから、ずっとそう。つかまえたら、すぐにころす。あんまり時間をおくとよわってまずくなるから、はやくしめたほうがいい。これは魚と同じだから、分かるだろう。
たべものがたくさんあるときは、気まぐれにとっておいて、あそびに使うこともある。しんだら食べる。
おれはそのどれもができなかった。
ほかのゴブリンたちが当たり前にしていることが、できなかった。とうぜん、人間の肉はもらえない。
ゴブリンはつよいやつがえらい。ゴブリンのつよさは、人間をころして食べたかずとおなじだから、おれはいちばんよわい役立たず。
とらえた人間の世話はできたので、おれはずっとその役目をしていた。つかまった人間たちは、しぬまえの生き物がたてる声でさけぶから、かかわるのはあまり気分のいいものじゃなかった。
にがすことを考えたことはない。気のどくだからって、かちくをにがしたりしないのと同じ。なのに、よわった人間すらも始末するのができないから、リーダーのゴブリンにいつもなぐられた。しぬってなんどもおもった。ゴブリンは、手かげんなんかしない。相手がしんでもなんとも思わない。自分がしんでもなんとも思わない。
人間だって、牛やトリを食べるためにだいじにそだてて、でも、さいごはきちんところすだろう。なのにおれは、それができなかった。じぶんが生きるために世話しておきながら、ころしてバラして肉にするのはできませんって、そりゃあ仲間はずれにされてとうぜんだ。生き物として、なにか欠けてる。
こんなやつは、おれ以外にもいたんだろうか。いてもすぐにしんでいただろう。うまく生きるためのことができないのだから。ふつうなら、おれみたいな役立たずはすぐにしぬ。
おれはしぬのがこわい。これもゴブリンとしては、あまりふつうじゃない。でも、こわくてにげたから、こうやってまだ生きている。
(書いていてつらい気分になってきた。こういうことを思い出して書くのはしんどい。けれど、文字にするとなんだか自分のことじゃないみたいな気もする。これはどういうことなんだろう)
ウィローがしんぱいそうに見にきてくれる。
だいじょうぶだよ。
ああ、ここに書かなくても、言えばいいのか。
この文字、消さなくていい? わかった。
あしたはたのしい話を書こう。