17 ウィローとダラスのこと(4)
いろいろ思い出して書いていると、そういえばこういうこともあった、こんなふうに言ったなと、わすれてたことも思い出す。
でも、この時3人でお茶とクッキーをいっしょに食べたことは、なんだかはっきりおぼえている。すごくたのしかった時間、ってわけでもない。だけど、この先もずっとわすれないと思う。
とにかくウィローが落ちついたようでおれはホッとしていた。
ダラスももう、こわい目つきじゃなかったし、冷たい声でもなかった。いつものダラス。
だけど、あれはなんていう表情なんだろう。おれはやっぱり、あの時のダラスのことはわからない。ただ、おれが知ってる表情でいうなら、ダラスは少しかなしそうだった。
ダラスは手もとのお茶の入ったカップを見つめながら、わりとまじめな声で、こう言った。
「さっきはわるかった。あやまるよ。仲よさそうなあんたら見てたら、うらやましくてねたましかった。わざと、ゴブリンにいさんを傷つけるように言ったのも、あやまるよ。なんで、あんなに言っちまったんだろうって、自分でもイヤになる。でもなあ、オレと同じ、なんならオレよりひどい一人ぼっちと思ってたあんたに、うらぎられたような気持ちになったんだ」
友だちに対してわるい気持ちをもつのは、そんなにおかしなことじゃないだろう。それに、おれとダラスは友だちでもないんだったし。
それに、おれはおれで、うらやましいと言われて、心がまいあがってしまったんだ。
すぐに、はずかしくなったけど、人にうらやましいなんて初めて言われたし、すごくとくいな気持ちになった。ダラスがかなしそうなのも感じていたのに。それでも止められなくて、おれも自分がイヤになった。
そう言うと、ダラスはあきれた顔で「正直すぎんだろ」と少しわらったから、「そっちこそ」とおれもわらって言った。ウィローはただだまって、なにかをたしかめるように、いのるようにおれたちが話すのを見ていた。
ダラスはこんどは、ちゃんとおれの方を見た。
「もうそんなふうに言わねぇよ。やっぱオレは、ゴブリンにいさんの菓子もお茶も好きなんだ。たおれちまうなんて思わなかった。うん、やっぱりオレはあんたが好きだから、もう傷つけるような言い方はしないと約束するよ。オレはウソもつくけど、これは本当」
そして、ウィローを見て言った。
さっきみたいじゃなくて、とてもおだやかな声だった。
「だから、聞きたいことがあれば聞けばいい」
この時、ダラスはここにくるのはもうこれでさいごだと決めていたんだ。だから、ぜんぶ話そうとした。
お茶を一口のんでから、しずかにウィローはことわった。
ウィローもずいぶん落ちついていて、いつものやさしい声だった。
「きょうは本当にもういいの。またいつか聞くかもしれないけれど、きょうはもういい」
「いつか、ってオレ、デキンじゃねえの」
「分からない。でも、あなたの言った本当ってことばをしんじてみる。この人を傷つけるつもりがないなら、それだけでも本当なら、私はそれでいい。だってそうなら、私のこともだいじにするでしょう? ウソだったなら、次はない」
「知らずに傷つけることは、あるかもしれねぇよ?」
「それはだれでもそうでしょう。わざとかそうでないかくらい、私にだって分かるわよ」
デキン、ってなに? とおれがたずねると、ダラスが説明をしてくれた。
出禁。出入り禁止。
「えっ、もう来ないのか?」
「来ないほうがいいんじゃねぇの? ゴブリンのくすり、もう売らねぇだろ」
「ああ、そうか。それは、うん、そうだ」
言われて気持ちが固まるなんて、おれはゆうじゅうふだんな奴だ。
でも、おれのつくったくすりが、フェアリーをくるわせるために使われるのは、ぜったいにイヤだった。ダラスがそうじゃないと言ってくれたから、それを信用しないみたいでわるい気がしたけど、そうかもしれないと思うと、もうゴブリンのくすりを人にわたすことはできなかった。
だから、ダラスから言ってくれてホッとしたのは正直なきもち。
「でも、そうか。そうなるとおれには金もないし、ダラスがやってくる理由はなくなるのか……」
「いやいや、そうじゃなくて。さっきまでの、おじょうさんのいかく忘れたのか? おじょうさんはオレに来てほしくないだろう? いや、あれ、どうだったか。おじょうさん、あんたはオレをゆるしたのか?」
「ゆるしたわけじゃないわよ、今はね」
話がこんがらがってきた。
こういうときは、いちばんだいじなきもちから話すんだ。
おれはあんまり頭がよくないから、なるべくしょうじきに話さないと、伝わらない。
「あのさ、おれはこれからもダラスに来てほしい。でも、ウィローは、どうかな?」
「いいよ。私はあんまり会わないかもしれないけど」
「ありがとう。で、ダラス。あんたはどうだい? おれにはもう、売るものはないんだが」
ダラスはじっと考えた。
それから「すまない、ありがとう」って小さく、本当に小さくていねいに言った。
ダラスが何にあやまって、何にお礼を言ったのか、おれはいまだに分からない。でも、なんとなく安心した。また来てくれるんだろうなって、そんなふうに聞こえたから。
この日の話は、これでおしまい。
そのあと、しばらくダラスは来なかった。
そのうち冬になって、そのあいだ来ないのはいつものことだったけど、春になってもやって来なかった。
もしかしたら、もう来ないのかなって思いはじめたとき。春と夏のあいだくらいの、とても天気のいい日だった。でんしょばとがやってきて、もうすぐダラスが来るよとおしえてくれた。
おれはすごくうれしかった。とてもとてもうれしくて、でんしょばとをかかえておどっていた。
ウィローはそんなおれを見て、いつものように笑っていた。




