16 ウィローとダラスのこと(3)
きょうの明け方、ひさしぶりにウィローが起きてきた。ゆきも止んで、外が明るかったからだろう。見わたすかぎり、白い世界。風でとばされる氷のツブがキラキラ光って、ウィローの羽の光る粉みたいだ。
窓辺にすわって、ハチミツを入れたあたたかいお茶をふたりで飲んだ。ひさしぶりのおしゃべり。すぐにくもる窓ガラスを、なんどもこすって外をながめた。
今はなにを書いてるの? と聞かれて、ダラスと初めて会った時のこと、というと、ウィローは「そう」とだけ答えた。それ以上はなにも言わなくて、ねむそうにうとうとし始めたから、羽ぶとんまではこんでやる。
「つぎにおきたらよませてね」ってちいさな声でつぶやいて、ウィローはふとんにもぐりこむ。
ウィローがねむってしまうと、小屋はまたしずかになる。ゆきがつもっているから、よけいにしずかだ。
◇
この前のつづき。
気を失っていたおれが目をさまして、ウィローはふるえていて、ダラスはみょうにひらきなおった顔をしてた。
ここからどうしたらいいか、ぜんぜんわからなくて、おれはもういちど「とりあえず、お茶にしようか」と言ってみた。
ふたりはまた、こまった顔でおれを見た。だけどこんどは、ふたりもどうしたらいいかわからなかったんだと思う。ぎこちなく3人でテーブルについた。おれとダラスは元のイスにすわり、ウィローには専用のちいさなテーブルセットを出して机の上にならべた。
それからだまって3人でお茶をのんだ。
おれのとっておきのお茶とおかしが、ちゃんとテーブルにならんでいる。
その日やいたばかりのクッキー。くだいたナッツとハチミツをねりこんだ生地をしっかりやきしめた。ダラスが来ると分かってたから、もてなしたくて作っていた。
こやの中にも甘くてこうばしいにおいがたっぷりで、しあわせを絵にかいたような場面だったから、よけいに次になにを話せばいいかわからなくなった。少しかためで、はごたえのいいクッキーを食べる、カリカリという音だけがひびいていた。
「うまいよな、ゴブリンにいさんのクッキー」
そうダラスがつぶやいて、ウィローが思わずと言うように「うん」と返事をした。
たぶん、これで3人ともホッとしたんだと思う。さっきまでのことはなかったみたいに、しばらくおれの作るおかしやりょうりの話でおしゃべりをした。ちょっとぎこちなかったけど、はじめて出会った3人が話すにしてはわるくなかった。
「ゴブリンがこんなに料理がうまいなんて、だれも思わないよなあ」
「ここは、いいレシピがたくさんあったから。おれはずいぶんラッキーだったんだ」
「そうは言ってもよ、イチからきっちりていねいにやるとこが、ゴブリンにいさんのいいとこだよな」
「うん、いつもていねい。お茶もおいしい。それに、ジャムも入れてくれる」
ふたりは目を合わさないまま、話をする。おれは、ふたりを交互に見てた。
「マジかよ、あの甘いのが好きなのか。オレ、苦手だわ」
「合わないね」
「合わねぇな」
ふたりが同時におなじようなことを言ったのが、みょうにおかしかった。
「あのジャムの良さがわからないなんて、しんじられない。ほうせきみたいにキラキラしてて、とろりと甘くて、さいこうなのに」
「いや、わかるよ。ゴブリンにいさんのジャムがうまいのは、そりゃもうまちがいねぇけどさ。それをお茶に入れるなって話だよ。お茶の味が変わるだろうがよ」
「その組み合わせが完ぺきなのに」
「分かってねえな〜〜なあ、にいさん!」
「ええっと、おれはどっちも好きだなぁ……」
それからふたりは、はりあうようにどんどんおれをほめまくるから、うれしいやら、気はずかしいやら。みどりの体は色が変わることはないけれど、おれが人間だったら、きっとまっかになっていただろう。




