13 てがみ
ところで、おれはダラスのことを出会う前から知っていた。
せいかくに言えば、名前だけ知っていた。
丸太ごやにたくさんのこされた本やレシピ。他にもいろんなものがあった。おれは文字がよめるようになって、時間もあるから、しまってあった紙の束をひっぱりだして時々少しずつよんでいた。あたらしいレシピがあるといいな、なんて思いながら。
レシピ、レシピ、毒の作り方。
レシピ、くすり草の育てかた、レシピ、毒やくすりの注文書。
そして手紙が1通。ダラスという人にあてた、手紙。
ずいぶんたってから、おれはこの手紙のことを思いだした。わすれてたわけじゃないんだが、手紙の中の人と、じっさいの人がむすびつくのに時間がかかったんだ。それで、おれはダラスにこの手紙をわたしてやった。
これは、君のだろうって。
ダラスは少しおどろいた顔をして、へえ、と言ってうけとると、すぐに手紙の封を開けた。
そして手紙をパッとひとよみすると、そのまま目の前のたき火にぽんと投げいれた。ダラスのうごきはとても自然で、手紙はあるべきところへしまわれたように見えた。
ほのおは、あたらしい紙にとびついて、パッと大きくなる。ダラスはいつもの顔で、大きくなったほのおを見ていた。それからとてもしずかな声でおれにたずねた。
「にいさん、中身、よんだかい?」
「うん、よんだ」
「そうかい、忘れてくれよ」
だから、おれは忘れることにした。おれもほのおを見てた。
火はあっという間に手紙をくらいつくして、すぐにもとの大きさにもどった。
おれは、ざんねんな気がしてつぶやいた。
「もえてしまったことばは、きえてしまうんだな」
「おれがよんだから、もういいんだよ。あれはそういうたぐいのことばだ」
そう言ったダラスは、少し目をとじた。
(ダラスは畑しごとのあいまに目をとじて、畑のまん中でじっとしてる時がある。その時と似たような顔だった)
あの時、ダラスの声はずっとしずかで、おだやかだった。いつもはふざけたように話すから、あんなふうなのはめずらしくて、たまに時々おもいだす。
おれにはまだ、知らないことばがたくさんある。




