12 とりひき
ダラスと出会ったのは、ウィローに会うよりも前だった。
はじめのほうでも書いたけど、ダラスは行商人をやっていて、森でまよっていた時に丸太ごやにいるおれを見つけた。
ダラスは町でこむぎこや油を買ってきてくれる。それから本も。
もちろんタダじゃない。ダラスはいいやつだけど、お人よしじゃない。取引をじぶんが得になるようにしたり、小さなウソもつく。町での話を、ずいぶん大げさに言うこともある。そういうのは、だいたい聞いてる方にはわかってしまうけど、それでもおれはダラスが好きだ。
(ウィローは、ダラスのそういうところが苦手だと言うけど、セドリックならわかるんじゃないかな。セドリックの話はもう少し先。あとでちゃんと書くよ)
おれは、人間のお金をもっていないから、代わりにゴブリンのくすりを作ってわたしていた。これがけっこう高く売れたらしい。えらいまほう使いが、ひいきにしてくれるんだと言っていた。
おれとダラスは友だちじゃない。
というのも、一度お茶をのみながらおしゃべりをしていた時に、きいてみたことがある。
ちょうどおれがこの丸太ごやにたどりついた話をしていた時だ。
「ゴブリンにいさんは、どうやってここへ来たんだい?」
ダラスはやきたてのクッキーを、とてもおいしそうに食べるから、見ていてうれしくなる。
「それが、ぜんぜんおぼえていないんだ。ゴブリンの群れをにげ出して、ひっしで走ったりころんだりして、方向もよくわからなくなってたし。気づいたら森の中にいて、目の前にこの丸太ごやがあったんだ」
「へえ、そいつはラッキーだったな。もし、人間がいたらどうしてた?」
「どうもしないよ。そっとここからはなれたさ。でも、空き家だったし、じゃあ、いいかなって住みはじめたんだ」
ダラスはまたひとつ、クッキーを口にほうりこむ。大きいじゅんに食べるのは、ダラスのくせ(おれは形がいびつなものから食べる。なんとなく。これはおれのくせ)。
「だれも、いなかったのかい?」
「いいや、やぬしがいたよ。でも、死んでとっくにくさっていた」
「そいつをどうした? くったのかい?」
「いいや、くわないよ。おちてたホネと肉は、全部ひろってウラの畑の土にまぜた。あそこは日あたりもよくて、手入れもていねいにされていた。いい畑だ」
ふうん、というとダラスはもう一つクッキーを口にほうりこんだ。
それで、おれはふと思ったんだ。ダラスは、ゴブリンが人間をたべるって知っているのに、おれがこわくないのかなって。だから聞いてみた。
「ダラスは、おれがこわくないのかい?」
そうしたら、ダラスはへいきな顔でわらって言った。
「ははっ、こわいなんて思ったことないな。ゴブリンにいさんほどのんびりしてんのは、人間でもそういやしねぇよ」
「じゃあ、あんたはおれの友だちか?」
そんなこと聞くなんておかしいって、今ならわかるんだけど。
ちょうどそのころ、よんでいた本が仲よしの友だちを見つける話だった。おれはその話にかなり心をうごかされていたものだから、ちょっと聞いてみたかった。ウィローと出会う前のおれには、友だちなんていなかったから。ダラスがそうならいいななんて、ちょっと思ってた。
ダラスは明るくわらってこう言った。
「いいや、友だちじゃねぇな」
「そうかい」
「取引相手ってやつだよ、とびきりのな」
ふしぎなことに、友だちじゃないって言われても、ざんねんな気はしなかった。それより、とびきりの取引相手、ってことばにおれはうれしくなった。おれの価値がちゃんとあるって言われて、対等なあつかいをされたような気がしたんだ。そういうあつかいをしたのは、ダラスだけだ。
なんだかモゾモゾした気持ちになって、クッキーをかじった。
ダラスもまたひとつ、クッキーを口にほうり込んだ。
あの時のクッキーの味は思い出せる。その日はダラスが来るから、ちょっとぜいたくに干したぶどうをまぜこんだ生地を使っていて、かなりうまくやけていた。これも売れるんじゃないかって、ダラスは言ってたな。けっきょく、売ることはなかったけど。
「にいさんの作るくすりは、本当に評判がいいんだぜ。ゴブリンのくすりは、たまに出回るけどそもそも数が少ねぇし、作りもザツだ。あんたのはマジで一級品だよ。それに、ここにくればうまいお茶とクッキーも食えるしな。オレにとっちゃ、いいことばかりだ」
「そりゃ、よかった」とおれがこたえると、ダラスは、まんぞくそうにお茶をのんだ。
「そして、ゴブリンにいさんは、ほしい食べものや本が手に入る。たがいにいいことばかりだろう。これが、とびきりの取引相手ってことさ」
「なるほどなぁ!」
「だけどよ、もしもゴブリンにいさんが他の人間に見つかったりしたら、わるいけどオレは助けたりしねえよ」
ダラスがまじめにそう言うものだから、おれはおかしくなってわらった。
「わざわざ言わなくても、そりゃそうだろう」
「あんたが友だちだなんだと言うから、気になって言ったんだよ。オレは商売人だから、自分が不利になるようなことはしねえよ」
「わかってるよ」
「ああでも、沼にはまってタスケテクレーみたいな時だったら、手をかしてやる」
ダラスが沼にはまったあわれなゴブリンのまねをしてみせて、おれたちはゲラゲラとわらった。
(じっさい、おれは沼にはまったことがある。その時ダラスは見ているだけで、助けもせずに大わらいしてた。ダラスはこういうウソをよくついた。でも、ウソというにはちがうかな。あとになって考えが変わることなんて、よくあることだ。だから、おれが他の人間に見つかった時、ダラスはたすけてくれるかもしれないな)




