11 道かくしのまじない
森の中で、きせつに合わせてゆったり日々をすごすうちに、ウィローはたくさんわらうようになった。
木かげや草はらもいいけれど、川辺にいるのが、やっぱりいちばん気持ちよさそうだ。
春は草はらへ花つみに。
たくさん味のちがうミツが取れるから、ウィローが楽しみにしてる(もちろんおれも楽しみにしてる)。
花びらのさとうづけも作る。ウィローはこれも大好き。
ノイチゴやルバーブもこの頃からとれはじめる。
夏は川あそび。ウィローは、川が大好き。
魚もたくさんとれる。
おれは、ダラスが持ってきてくれるスイカがたのしみ。
秋は木の実やキノコ取り。
冬じたくに取りかかる。秋はいそがしい。
ウラの畑で、かぼちゃもできる。
冬になって雪がふりだせば、丸太ごやにこもりきり。
ウィローは、このじき長くねむる。
そうこにつめ込んだ食べものを、すこしずつ食べてゆっくりすごす時間。
(そういえば、文字をのこすのは、ほぞんしょくを作るのに少し似ている。今すぐ役に立たないものをつくるのは、やっぱりとてもぜいたくで、自分をだいじにあつかっている気持ちになる)
おれたちの住んでいる森のこやは、だれも来なくて、とてもしずか。おかげでウィローもおちついてすごせている。
まるでまほうがかかっているみたいだ、と言ったら「そうだよ」とウィローに言われてびっくりしたことがある。じょうだんのつもりだったのに。
「このあたりには道かくしのまじないがかかっている。きっと、丸太ごやに住んでた人がかけたんじゃないかしら。ふつうの人間なら、まずたどりつけない」
おれは考えるのがあんまりとくいじゃない。だから、この時おれが思ったのは、前のやぬしへのお礼のきもちだけだった。くらすのに十分なものを、おれはもらっていたし、それを守ってもくれてるのかって。ほんとにありがたいことだ。
ウィローは、気づいていたんだろう。
だからダラスに対して、長い間けいかいしていた。
◇
ウィローはすっかり正気にもどったあとも、しばらくダラスにすがたを見せなかった。きせつがひとつかふたつ、かわっても。やってくるとわかると、すぐにかくれてしまう。
ダラスはいつも、やってくる前にれんらくをよこす。たいていは、でんしょばと。
(いぜんは、ちいさなケモノをつかうこともあった。ケモノびんには、マチネズミやイタチがよくつかわれる。だんぜんハトより手軽だけれど、さいきんは森のフクロウがふえて、とちゅうで狩られてしまうことが多いらしい。それで、ダラスはでんしょばとを好んでつかう。町でのれんらくは、ケモノびんの方が人気らしい)
おれはダラスのでんしょばとがやってくると、いつもうれしくなる。
灰色で、かわいくて、とてもかしこい。
どうしてれんらくをくれるのかと言えば、こんな森のおくふかくの丸太ごやにやってくる人間なんて、たいていロクなやつじゃないそうだ。だから、ダラス以外のだれかが来たら、すぐにげれるようにっておしえてくれた。
「それに、にいさんのやきたてのクッキーが食いたいんだ。よういしといてくれよ」って言っていた。もちろんだ。
だからダラスが来る日はあらかじめ分かっていて、ウィローは必ずかくれていた。
人間につかまっていたときのことがあるから、人間に会いたくないんだろうと思っていたけど、それだけじゃなかったとわかるのは初めてウィローがダラスと会った時だった。
でも、正直あんまりふかく考えていなかった。
だれにだって、好ききらいはあるものな。だけど、いつか3人でお茶をしたりできたらいいな、なんてぼんやり思ってた。
ダラスがかえると、ウィローはそうっと姿を見せる。
あたらしい食材や、本をいっしょにながめる。めずらしい食べものや、みたことない品をふたりであれこれながめるのは楽しかった。
「そうだ、ウィロー。きょうは、あたらしい本があるんだ」
いっしょによもう。とてもうつくしい本。ダラスがえらんでくれたんだ。草や花のきれいな絵がたくさん書かれた本。こんなにステキなものをえらんでくれる、ダラスはいいやつだ。
そう言うと、ウィローは「私をなぶった人間たちも、うつくしいものが好きだった」と、しずかにつぶやいた。




