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11 道かくしのまじない

 森の中で、きせつに合わせてゆったり日々をすごすうちに、ウィローはたくさんわらうようになった。

 木かげや草はらもいいけれど、川辺にいるのが、やっぱりいちばん気持ちよさそうだ。



 春は草はらへ花つみに。

 たくさん味のちがうミツが取れるから、ウィローが楽しみにしてる(もちろんおれも楽しみにしてる)。

 花びらのさとうづけも作る。ウィローはこれも大好き。

 ノイチゴやルバーブもこの頃からとれはじめる。


 夏は川あそび。ウィローは、川が大好き。

 魚もたくさんとれる。

 おれは、ダラスが持ってきてくれるスイカがたのしみ。


 秋は木の実やキノコ取り。

 冬じたくに取りかかる。秋はいそがしい。

 ウラの畑で、かぼちゃもできる。


 冬になって雪がふりだせば、丸太ごやにこもりきり。

 ウィローは、このじき長くねむる。

 そうこにつめ込んだ食べものを、すこしずつ食べてゆっくりすごす時間。


(そういえば、文字をのこすのは、ほぞんしょくを作るのに少し似ている。今すぐ役に立たないものをつくるのは、やっぱりとてもぜいたくで、自分をだいじにあつかっている気持ちになる)



 おれたちの住んでいる森のこやは、だれも来なくて、とてもしずか。おかげでウィローもおちついてすごせている。


 まるでまほうがかかっているみたいだ、と言ったら「そうだよ」とウィローに言われてびっくりしたことがある。じょうだんのつもりだったのに。


「このあたりには道かくしのまじないがかかっている。きっと、丸太ごやに住んでた人がかけたんじゃないかしら。ふつうの人間なら、まずたどりつけない」


 おれは考えるのがあんまりとくいじゃない。だから、この時おれが思ったのは、前のやぬしへのお礼のきもちだけだった。くらすのに十分なものを、おれはもらっていたし、それを守ってもくれてるのかって。ほんとにありがたいことだ。


 ウィローは、気づいていたんだろう。

 だからダラスに対して、長い間けいかいしていた。







 ウィローはすっかり正気にもどったあとも、しばらくダラスにすがたを見せなかった。きせつがひとつかふたつ、かわっても。やってくるとわかると、すぐにかくれてしまう。


 ダラスはいつも、やってくる前にれんらくをよこす。たいていは、でんしょばと。


(いぜんは、ちいさなケモノをつかうこともあった。ケモノびんには、マチネズミやイタチがよくつかわれる。だんぜんハトより手軽だけれど、さいきんは森のフクロウがふえて、とちゅうで狩られてしまうことが多いらしい。それで、ダラスはでんしょばとを好んでつかう。町でのれんらくは、ケモノびんの方が人気らしい)


 おれはダラスのでんしょばとがやってくると、いつもうれしくなる。

 灰色で、かわいくて、とてもかしこい。


 どうしてれんらくをくれるのかと言えば、こんな森のおくふかくの丸太ごやにやってくる人間なんて、たいていロクなやつじゃないそうだ。だから、ダラス以外のだれかが来たら、すぐにげれるようにっておしえてくれた。


「それに、にいさんのやきたてのクッキーが食いたいんだ。よういしといてくれよ」って言っていた。もちろんだ。


 だからダラスが来る日はあらかじめ分かっていて、ウィローは必ずかくれていた。


 人間につかまっていたときのことがあるから、人間に会いたくないんだろうと思っていたけど、それだけじゃなかったとわかるのは初めてウィローがダラスと会った時だった。


 でも、正直あんまりふかく考えていなかった。

 だれにだって、好ききらいはあるものな。だけど、いつか3人でお茶をしたりできたらいいな、なんてぼんやり思ってた。


 ダラスがかえると、ウィローはそうっと姿を見せる。

 あたらしい食材や、本をいっしょにながめる。めずらしい食べものや、みたことない品をふたりであれこれながめるのは楽しかった。


「そうだ、ウィロー。きょうは、あたらしい本があるんだ」


 いっしょによもう。とてもうつくしい本。ダラスがえらんでくれたんだ。草や花のきれいな絵がたくさん書かれた本。こんなにステキなものをえらんでくれる、ダラスはいいやつだ。


 そう言うと、ウィローは「私をなぶった人間たちも、うつくしいものが好きだった」と、しずかにつぶやいた。


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