10 ゴブリンの名前
しばらくだまって丸太ごやへの道をあるいたけど、さいしょにガマンできなくて口を開いたのはおれだった。こういう時は、たいていロクなことを口にしない。
「仲間のところに、戻らなくてよかったのかい?」
ウィローはたっぷりとだまったあと、トゲのある声でこう言った。
「仲間に見えた?」
こんどはおれがだまった。
ほんとうはわかっていた。あの目はおれも知っている。
仲間じゃないやつに向ける、さげすみと拒絶の目。
おれだって、仲間のところにもどりたいかなんて、言われたくないのに。
おれはあやまった。
ウィローも、「きつい言い方をしてごめんなさい」とあやまった。
「私は人間につくられたフェアリーだから、本物のフェアリーから見れば気味のわるい、のろわれた存在なの。見た目はおなじなのに、中身がちがうんだもの。それに、私はほかのフェアリーをたくさんころしてる。そういうこともわかってしまう。さっき、こうげきされなくて、よかったくらい」
「……気味がわるいなんて言わないでくれよ」
「そうだった」
ウィローはとてもさびしそうだった。
いつもよりも、もっと小さく見えた。
このまま消えてしまったらどうしようかと不安になった。
せめて、おれがゴブリンなんかじゃなくて、たとえばエルフとかみたいに、すごい存在だったらよかったのに。
そうしたら、ウィローはもっと堂々としていられただろう。だれに仲間はずれにされたって平気なくらい、おれがそばにいれば大丈夫、そんなすごいやつだったらよかった。
そうおもうと、また申し訳なくなった。たまたま出会った相手が、よりによってこんなにみにくくて、ちっぽけなゴブリンだなんてウィローがかわいそうになった。
そう言うと、ウィローはびっくりした顔をした。
「そんなこと考えてたの? 自分のこと気味がわるいなんて言うなって、あなたが言ったんでしょう? なのに、どうして自分のことをそんなふうに言うの?」
「いや、どう見ても、おれはみにくいだろう。体もこんなにみどりでデコボコしているし……」
するとウィローは全然ちがうことを言い出した。
「あのね、私は何から作られたと思う?」
きゅうに話がかわったので、おれはあわてて首をふる。わからない。
「私、ヤナギの木から作られたんだ」
そう言ったウィローは、もう自分を見下げるようなかたい声じゃなくて、いつものやわらかな声にもどっていた。
ヤナギの木。
大きくてやさしいヤナギの木が、とうめいな川にその葉先をひたし、ゆったりと風にゆれている風景があたまの中に広がって、さっきまでのどんよりした気持ちはすっかり消えていった。
そう、ウィローはヤナギのフェアリーだ。
すらりとしてしなやかな体は、たしかにヤナギの木そのものだったし、風にゆれるきんいろのかみは日の光をあびるヤナギの葉に見えてくる。どうして気づかなかったんだろうと思うくらい、ウィローはヤナギそのものだった。
川辺が好きなのも、そのせいかもしれない。
ウィローのもとになったヤナギの木は、きっと川辺に生えていたんじゃないかな。
おれはうれしくなって、そのままわらって「そうか」って答えた。
「そう、そうだよ。あなたと同じ、みどりの色をもってるの。同じだよ、おそろいの色」
そういったウィローはなんだか泣きそうな顔をしていた。
わらいたいのに泣きそうな、そんなふうな顔。
「あなたの名前、私がつけてもいい?」
「もちろん、いいよ」
ウィローが本当に泣いてしまいそうだったので、おれはあわててしまって、たぶん何を言われても「いいよ」って言ったとおもう。だから、すぐには何を言われたのか分かってなかった。
名前。
ウィローはおれに、名前をくれた。
フロッグ。
とてもいい名前だろう。
おれのもっている、たいせつなもののひとつ。
ウィローの中に、ほんの少しだけのこっているヤナギのきおく。
いちばん好きだった生き物と同じ名前だよと、ウィローは大事そうにおしえてくれた。
「フロッグ、いつもわたしのそばにいてくれてありがとう」
ウィローはそう言って、やっぱり泣きそうな顔でわらっていた。




