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泥にまみれ

俺たちの隠れていた資材運搬用の通路のすぐ隣で、魔物の濁流が続く。クレメンス伯爵が率いた騎士団の残党が逃げ惑う様と、それに追随する狂乱した魔物たちの群れ――その勢いは、俺たちの脱出路を完全に塞いでいた。

「ちくしょう、まるで地獄の洪水のようだ。このままじゃ、ニールが封鎖した道まで辿り着けねえ!」マーティンが戦斧を強く握りしめた。

その時、ニールが封鎖したはずの場所から、大きな爆発音が響いた。

ドゴオォォン!

「ニール!?」マーティンが叫んだ。通信手段がない今、この音は、ニールが通路をさらに強固に閉ざすか、あるいは最後の防衛ラインを突破されたことを意味していた。

しかし、爆発の轟音の後、一瞬だけ魔物たちの流れが滞った。爆発によって、通路の岩盤の一部が崩れ、魔物たちが足止めを食らったのだ。

「今だ、マーティン!爆発でできた隙を突くぞ!奴らが体勢を立て直す前に、一気に抜ける!」

俺たちは、もはや潜行や回避を捨てた。長槍と戦斧を構え、狂乱した魔物たちの群れへと飛び込んだ。

この魔物たちは、女王の死によって、通常の魔物よりも凶暴性と統率のなさが際立っていた。個々の判断で攻撃を仕掛けてくるため、その動きは読みにくいが、隊列がないため、一点突破は可能だ。

「どけ!道を開けろ!」

マーティンの戦斧が、濁流の先頭を切り裂く。強化魔力鋼の斧は、狂乱する戦闘種の分厚い甲殻を容赦なく叩き割り、その巨体をねじ伏せた。マーティンの周囲に、血と体液の赤い円が一瞬で描き出される。

俺は、マーティンが切り開いた道筋の側面を徹底的に守った。飛びかかってくる劣等種には長槍の柄で殴りつけ、中型種には穂先を喉元に突き立てた。

ザシュッ!ドゴォ!

俺たちの動きは、女王との戦いで研ぎ澄まされた完璧な連携だった。マーティンが矛となって前進し、俺が盾となって脇を固める。狂乱した魔物たちは、その壁を突破できず、次々と血溜まりに倒れていった。

しかし、魔物の数は、尽きることがない。俺たちの体力が消耗していくのを感じた。

「ニール!お前がいるのはどこだ!」マーティンが叫びながら斧を振るった。

その瞬間、崩落した通路の奥から、二度目の爆発音とは違う、小さな、しかし鋭い金属音が三度響いた。

キィン、キィン、キィン!

「あれは、ニールの合図だ!」

俺たちは、その音の方向へ、最後の力を振り絞って突進した。

数多の魔物の死骸を踏み越え、ようやく辿り着いた先は、岩盤が完全に崩れ落ちた行き止まりだった。しかし、その岩盤の隙間に、一筋の光が見えた。

「来たな!二人とも!」

光の隙間から、血と泥にまみれたニールの顔が見えた。

「早く入れ!これ以上はもたねん!」

ニールが封鎖した通路は、岩盤崩落と、ニールが仕掛けた魔晶によって、人間が一人、這い進むのがやっとの極めて狭い穴と化していた。彼の顔は煤と血で汚れ、肩で荒い息を繰り返している。彼の剣には、魔物の体液がべっとりと付着していた。ニールも、この通路を守るために、限界を超えた戦闘をしていたのだ。

「ニール!」マーティンは叫ぶと、戦斧を背中に縛りつけ、がれきの中へ身を滑り込ませた。

俺もそれに続いた。

狭い穴の中、泥と岩に全身を擦りつけながら、這い進む。背後からは、俺たちを逃がすまいとする魔物たちの絶望的な咆哮と、岩盤を叩く激しい音が響いてくる。

数分間、ひたすらに泥の中を這った後、俺たちは安全な場所へと転がり出た。

「はぁ、はぁ……間に合ったか」マーティンは地面に倒れ込んだ。

ニールは、通路の隙間から聞こえる魔物たちの音を聞きながら、持っていた最後の高出力魔晶を、崩落した通路の最も危険な部分へ設置した。

「ここが最後の砦だ。これでおそらく、数時間はもつ」

ニールは立ち上がると、俺たちの顔を見た。その顔には、安堵と疲労、そして女王を討伐したことへの誇らしさが混じり合っていた。

「女王討伐、よくやったな。だが俺たちの仕事は、まだ終わっちゃいないぞ」


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