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一撃

俺たちは血溜まりを蹴立て、女王へ向け、最後の突進を開始した。

女王の口元に凝縮された酸液の塊は、すでに青白い光を放ち始めていた。あれが放たれれば、この孵化室の崩壊は避けられない。それは、俺たちの命運だけでなく、この街の運命を左右する一撃になる。

「マーティン!右だ!」

俺は叫びながら、長槍を盾のように構え、女王の注意を引きつけた。女王は、巨大な頭部を俺の方へ向け、酸液の照準を合わせた。

「キィィィィッ!」

女王が酸液を放つ直前、マーティンは、血溜まりを滑るように横滑りし、女王の側面、最初の攻撃で傷を負わせた右前肢の根元へと回り込んだ。

女王は、その動きに対応しようと巨体をねじったが、最初の傷が深い。動きは一瞬遅れた。そのコンマ数秒の遅れこそが、俺たちの勝機だった。

「もらったぞ、女王様!」

マーティンは、戦斧を両手で強く握り、全身の力を、傷口の甲殻のわずかな隙間に集中させた。彼は、最高の得物が持つ重心と破壊力を、最大の速度で振り抜いた。

ドゴォオオオン!

それは、金属が甲殻を砕く音ではなかった。それは、分厚い岩盤が、内部から爆発するような凄まじい轟音だった。バルガスが鍛え込んだ魔力鋼は、二度目の攻撃で、女王の右前肢の付け根の甲殻を完全に粉砕し、深く、その生命の中枢へと食い込んだ。

女王の体から、大量の黒い血と、どろりとした粘液が噴水のように噴き上がった。酸液の塊は、照準を失い、孵化室の天井に向けて不規則に噴射され、天井の岩盤を瞬時に溶かし始めた。

女王の巨体は、一瞬にして硬直した。しかし、まだ心臓は生きている。完全な討伐には、もう一撃が必要だった。

「ジーンズ!」マーティンが叫んだ。彼は、戦斧を引き抜くことなく、さらに深く食い込ませ、女王の動きを固定した。

俺は、女王の混乱と、マーティンが作り出した決定的な隙を見逃さなかった。長槍を低く構え、助走を付けることなく、全身のバネを使って、残る力をすべて乗せた。

狙いは、女王の巨体の奥深く、最初の一撃で傷をつけた腹部の付け根。そこは、生命を産み出す器官に最も近い場所だ。

俺は、血溜まりを蹴り、滑るように突進した。女王の全身が痙攣し、身体を反転させようともがく。

「これで、終わりだ!」

俺の叫びと共に、長槍の穂先は、女王の肉体を貫いた。

バギィッ!

長槍は、女王の甲殻の裏側にある硬い骨格を突き破り、その腹部の深部に達した。俺の長槍に伝わるのは、もはや肉体の抵抗ではない。生命の核が、一瞬にして機能を停止した、冷たい手応えだった。

女王の巨大な目から、光が失われた。その青白い酸液の残滓も消え去り、巨体は、静かに、しかし凄まじい質量を伴って、孵化室の中央に崩れ落ちた。

ドオオオオオン!

女王の崩壊と共に、部屋全体が激しく揺れた。天井の岩盤が音を立てて崩れ落ちる。

俺たちは、女王の死骸が巻き起こした土煙と、熱い体液の飛沫に包まれながら、その場に立ち尽くした。

勝った。

俺たちは、王都の騎士団が正面から恐れた女王を、たった二人の冒険者の連携と、最高の得物の一撃で、完全に仕留めたのだ。

マーティンは、戦斧を引き抜き、肩で荒い息を繰り返した。その顔は、血と汗と土煙で汚れていたが、その瞳には、凱旋の喜びではなく、長年の冒険者としての達成感が満ちていた。

「やったな、ジーンズ」

マーティンの声は掠れていたが、勝利の重みを伴っていた。

俺は長槍を引き抜き、血溜まりの中で、そっと彼に笑い返した。

しかし、安堵は一瞬で消えた。

女王の死によって、魔物たちの統率が崩壊したのだ。頭上の坑道全体から、狂乱した魔物たちの咆哮が響き渡り始めた。王都討伐隊が押し込んでいた魔物たちが、女王の死を感知し、無秩序に分散し始めている。

ニールが言った、「大穴の魔物たちが分散した際」という最悪の事態が、現実となった。

「急ぐぞ、マーティン。今すぐ、ここを離れる」

俺たちは、女王の死骸という証拠を背に、狂乱する魔物たちの群れの中を、生きて帰るための第二の戦いを開始しなければならなかった。

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