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心臓部

巨大な縦穴に身を投じた俺たちを待っていたのは、斜めに傾斜した、ぬかるんだ獣道だった。足元は滑り、魔力ランプの光は壁の粘土質に吸い込まれてしまう。俺たちは滑り落ちる速度を利用し、重力に従って女王の巣へと急降下した。

頭上の遥か遠くからは、王都討伐隊の戦闘による轟音と振動が、地盤を揺るがしている。この音こそが、俺たちを守る最高の盾だった。魔物たちの意識は、すべてあちらへ向かっている。

獣道を滑り降りること数分。ついに足元が平坦になり、巨大な空間へと飛び出した。 


そこは、女王の孵化室だった。


視界を奪うほどの濃密な腐敗臭。空間の中央には、人間の背丈ほどもある無数の卵の塊が粘液にまみれて蠢き、その周りを劣等種の魔物が蠢いている。しかし、俺たちの本当の獲物は、その奥にいた。


部屋の最深部、巨大な魔力鉱の岩盤に張り付くように鎮座していたのは、かつて見たどの個体とも比較にならない巨大な存在――女王だった。


彼女の甲殻は、光を吸い込むような漆黒。その背中には、護衛種の甲殻の五倍硬いとされる巨大な甲羅が隆起し、腹部からは生命を産み出す粘液が脈動していた。その体長は、馬車数台分。まさしく大穴の主だ。


女王は、表ルートでの戦闘に気を取られているのか、俺たちの侵入に一瞬遅れた。その隙を、マーティンは見逃さなかった。


「ジーンズ!行くぞ!」


マーティンの咆哮が、静寂を切り裂いた。彼は戦斧を低い位置に構えたまま、地面を蹴り、女王の右翼へと一直線に突進した。

俺も即座に動いた。長槍の穂先を女王の左側、卵の塊の方向へ向け、マーティンとV字型の二点攻撃の態勢を取る。

女王がようやく俺たちの存在を察知し、その巨体をねじらせた。凄まじい威圧感が、肌を刺すように襲いかかる。

女王の第一の防御は、その口から放たれる高密度の酸液だ。

「避けろ!」俺は叫んだ。

粘性の高い酸液が、マーティンの突進ルートを薙ぎ払うように噴射される。マーティンは、その巨体からは信じられないほどの鋭敏さで、紙一重の距離で酸液を回避した。彼は一切速度を落とさず、獲物の側面へと食い込む。

そして、最高の瞬間が訪れた。

マーティンが、全身の体重を乗せ、新しく鍛えられた戦斧を、女王の右前肢の関節の隙間へ叩き込んだ。


ゴオオオッ!


甲殻が砕ける音ではない。その硬さに斧が弾かれる音でもない。それは、分厚い肉体組織が、抵抗なく、深く引き裂かれる音だった。バルガスが込めた魔力鋼の威力が、女王の甲殻の僅かな接合部を完璧に破壊したのだ。

女王は、今までに聞いたことのない甲高い悲鳴を上げた。その体から、黒い体液が噴き出す。

しかし、女王の反撃は速かった。右前肢の負傷を無視し、その巨大な頭部が、体液を撒き散らしながらマーティンめがけて振り下ろされる。


「今だ、ジーンズ!」


マーティンは斬撃に満足することなく、すぐさま後方へ大きく跳び退いた。その間に、俺が間髪入れず、女王の注意を惹きつける。

俺は長槍を低く構え、狙いを定めたのは、女王が産卵のために発達させた腹部の付け根。そこは、甲殻が薄いと推測される唯一の急所だ。

女王の意識がマーティンに集中している一瞬の間に、俺は長槍を、低空で稲妻のような速度で突き出した。

ザシュッ!

長槍の穂先は、女王の腹部の薄皮を破り、深く食い込んだ。俺が期待した「堅く、それでいてしなやか」な槍は、想像通り以上の強度で、体内で暴れる女王の筋肉の抵抗を吸収した。

女王の悲鳴はさらに高くなり、部屋全体が振動した。


俺たちは、女王の初めての出血に成功したのだ。しかし、それは勝利を意味しない。激怒した女王が、全ての眷属を無視し、俺たち二人の冒険者だけにその殺意を集中させた。


女王の体から噴き出す魔力が、部屋全体の魔物を覚醒させる。戦闘は、ここから地獄と化す。俺たちは、最高の得物を手に、互いの背中を預け合い、女王との最終ラウンドに臨んだ。

「まだ終わっちゃいねえぞ、女王様!」マーティンが戦斧を構え、獰猛な笑みを浮かべた。

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