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かくも傲慢な

ギルドの作戦室で、最終的な作戦の詰めの議論を交わしている最中だった。

ガイエルが地図を囲む俺たちに最後の指示を出そうとした、ちょうど昼前のことだった。ノックもなく、作戦室のドアが乱暴に開けられた。

そこに立っていたのは、光沢のある白銀の鎧を纏った、傲慢な顔立ちの若い騎士、クレメンス伯爵その人だった。彼の背後には、彼直属と思われる精鋭の騎士が二人控えている。

クレメンスは、俺たちの武器や、マーティンの全快したばかりの体など、一切見ることなく、高圧的な視線で室内を見渡した。

「お前らが、好き勝手に動いている、生意気な冒険者共か」

その声は、王都ギルドの事務官と同様、俺たちが流した血の重さを微塵も感じさせない、安全な場所から発せられた傲慢な響きを持っていた。

作戦室の空気は一瞬で氷点下に達した。ガイエルは、テーブルを叩きたいのを必死に堪えているのか、その握りしめた拳の血管が浮き上がっている。リゼルは、いつもの冷静な表情を崩し、その目が伯爵を鋭く射抜いていた。マーティンは、新しい戦斧を肩に担いだまま、低い唸り声をあげ、一歩前に出ようとした。俺は静かにその動きを制した。

クレメンスは、傲然と腕を組み、俺たちの反応を見てさらに嘲るように言い放った。

「王都討伐隊が動き出す以上、フロンティアのお前たちに武勲を立てる必要はない。お前たちは、我々の作戦が完了するまで**『大穴』の入り口を固める防衛部隊**として待機していろ」

伯爵はまるで、目の前にいる俺たちを、価値のない障害物か何かのように扱った。

「戦い終わった後、その身で我々が倒した女王の死体を地上まで運ぶ名誉をやろうではないか。お前たち予備戦力の一切の指揮は、騎士団の私が執る。反論は許さん」

ガイエルは、怒りを押し殺した低い声で口を開いた。

「伯爵殿。我々フロンティアのギルドは、王都ギルドとの間で、予備戦力の指揮権は私、ガイエルに一任されるという正式な確約を得ている。あなたの行動は、その協定に反する」

クレメンスは鼻で笑った。その笑いは、ガイエルの言葉など、虫の羽音ほどにも聞いていないことを示していた。

「協定?ハッ!フロンティアの田舎者が、王都の事務官から形式的に受け取った紙切れか。騎士団の指揮官である私が、このような辺境の街で、指揮権を冒険者風情に譲る道理があると思うかね?」

伯爵は顔を近づけ、さらに侮蔑を込めた目でガイエルを見た。

「君たちの役目は、ただの盾だ。女王が万が一、我々の討伐隊を突破し、この街へ向かうようなことがあれば、時間を稼いで死ぬのが貴様らの仕事だ。それ以上の余計な動きは、王都の足を引っ張るだけだ。特に、その血迷った**『裏ルート』**などという作戦は、即刻中止しろ!」

その言葉に、ついにニールが我慢の限界を迎えた。彼は一歩前に出て、冷静ながらも鋭い反論を叩きつけた。

「伯爵殿。我々の裏ルート作戦は、あなたの命を救うためのものです。正面からの攻撃だけでは、女王は警戒心を高め、討伐隊を**『大穴』の奥深くへ引きずり込み、疲弊させるでしょう。我々が裏から侵入することで、女王は焦り、防衛の意識を分散させる。これは、作戦を成功させるための戦略的な陽動**です」

ニールは、机上の地図を指さし、理詰めで説得しようとしたが、クレメンスは彼を遮った。

「戯言を!口先だけの冒険者が、騎士団の戦略に口を出すな!」

クレメンスは、ニールの論理的な発言を、単なる冒険者の無責任な大言として否定した。

その瞬間、マーティンが我慢できずに怒声を上げた。

「俺たちが血を流して得た情報を、机上の空論で打ち消すのか!てめえは一体、この街の何を知っている!?俺たちがどれだけの仲間を失ったか、てめえのその白銀の鎧で、一度でも土を舐めたことがあるのか!」

マーティンの怒りは、作戦室にいる全員の代弁だった。その勢いに、伯爵の背後に控えていた騎士の一人が思わず剣の柄に手をかけた。

しかし、クレメンス伯爵は、マーティンの言葉には答えず、ただ冷たい目を向けた。

「無礼極まりない。フロンティアの冒険者とは、かくも品がないのか。いいか、貴様らの感情など、この街の運命の前では埃に等しい。私の命令に従え。そうでなければ、王都ギルドに対し、軍事命令への反逆として、貴様ら全員の冒険者資格剥奪と身柄の拘束を要請する」

クレメンス伯爵の脅しは、王都の権力を背景にした、最も重いものだった。ガイエルは、怒りに震えながらも、この状況で王都と決定的に対立することの危険性を理解していた。

作戦室には重い沈黙が落ちた。俺たちは、女王との最終決戦を前にして、まず傲慢な貴族という壁を乗り越えなければならない状況に陥ったのだ。

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