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傲慢

バルガスの店を出た俺たちは、王都での三日間という空白を得た。この時間で、ニールはもう一つの任務を遂行することになっていた。

「よし、武器はバルガスに託した。次は、ガイエルさんへの約束を果たすぞ。王都ギルドへ行く」

王都ギルドは、宿場町の簡素な建物とは比べ物にならないほど巨大で豪華だった。俺たちが案内されたのは、ギルドマスターの補佐を務めるという、騎士団との連絡役を兼ねた事務官の部屋だ。

そこにいたのは、胸に金色のバッジをつけた、まだ若い貴族出の男だった。彼の顔には、この数週間の間に俺たちが味わった死闘の緊張感も、宿場町の惨状を悼む感情も、一切見て取れなかった。

「フロンティア(辺境)の冒険者か。B級昇格、おめでとう。君たちの戦果は聞いている。しかし、君たちの『女王討伐』の依頼は、我々の王都討伐隊が実行する。君たちの役割は、その隙に街を防衛することだ」

事務官は、紅茶を優雅に啜りながら、俺たちを完全に蚊帳の外に置いた。

ニールは努めて冷静な口調で切り出した。「恐縮ですが、我々の任務は、女王討伐の鍵となる裏ルート(採掘孔)の確保と突破です。そのための最新の偵察情報と、万が一の事態に備えた予備戦力の手配の確約をいただきたい」

事務官は鼻で笑った。「予備戦力?不要だよ。王都討伐隊が本気で動けば、魔物の群れなど、一掃される。君たちの街は、我々の強力な防衛ラインによって安全に保たれている。君たちの不安は、フロンティア特有の過剰な警戒心から来るものだろう」

俺の腹の底に、黒い塊が溜まり始めた。彼らは、俺たちが地獄を見てきたことを、単なる功績としてしか見ていない。この王都の安全は、俺たちが流した血の上に築かれているのに、その血の重さを理解していない。

「おい、アンタ」俺は低い声を出した。「アンタの言う防衛ラインとやらが、もし崩れたら、次はどこが前線になるか知ってんのか」

ニールが俺の肩に手を置いたが、俺は無視した。

「俺たちは、たった数日の間に、街の半壊と、多くの仲間を失った。あんたが優雅に紅茶を飲んでいる間にな。もし、女王が討伐隊を突破し、この王都に辿り着いたら、あんたのその金色のバッジが、奴の甲殻の硬さの何分の一の役に立つんだ?」

事務官の顔から、一瞬にして笑みが消えた。彼は立ち上がり、鋭い目つきで俺を睨んだ。

「その無礼な態度、看過できないぞ!」

その時、ニールが静かに、だが強い声で介入した。

「申し訳ありません、事務官殿。彼の相棒は怪我で寝込んでいるので、少々直情的になっています」

ニールはそう言い繕うと、俺が持ってきた護衛種の甲殻の破片を事務官の机に叩きつけた。

「そしてこれは、我々が仕留めた護衛種の隊長種の甲殻です。我々が知る限り、女王の甲殻は、これの五倍は硬い。そして、これが我々が王都に武器を鍛え直しにきた理由です。我々の行動は、感情論ではなく、数字と事実に基づいています」

ニールは、事務的な言葉に徹することで、俺の怒りとは違う形で、王都側の傲慢さを突き崩しにかかった。

「我々が求めるのは、王都の騎士団の出動ではありません。もし、討伐隊の作戦が失敗し、『大穴』の魔物たちが分散した際、予備の偵察部隊をフロンティアへ派遣するという、最低限の確約です。この程度の予備の手配すら、王都の事務処理能力では不可能と?」

ニールは、王都のプライドを逆手に取った。事務官は、顔を赤らめながらも、ニールが提示した事実と、王都のギルドの面子を天秤にかけた。

「……わかった。予備の部隊をフロンティアのギルドマスター、ガイエル殿の指揮下に置く確約文書を用意しよう。ただし、この無礼は忘れない」

ニールは俺を睨みつける事務官に、深々と頭を下げた。

「ありがとうございます。では、我々はこれで」

部屋を出た後、ニールはため息をついた。

「やりすぎだぞ、ジーンズ。もう少しで、全てが水の泡になるところだった」

「わかってる。だが、奴らはまるで、俺たちが血を流した戦場を、安全なテーブルの上で語る物語だとしか思っていない。あんな奴らに、俺たちの命を預けるのはごめんだ」

ニールは俺の怒りを理解していた。

「わかっているさ。だが、これで我々の裏任務は完了した。王都は、自分たちが安全な場所にいると信じ込んでいる。その傲慢さこそが、いずれ彼らの命取りになるだろうな」

俺たちは、王都の表向きの華やかさと、その内側に潜む無関心さを肌で感じながら、バルガスの店で武器が完成する三日後の夕刻を待つことになった。

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