鉄を砕く
二日間の長距離移動を経て、俺たちは王都の城下町に到着した。
ギルドが用意した早馬を返し、俺たちは王都の裏通りへと向かう。王都の喧騒は、宿場町の緊迫感とは異質で、むしろ俺たち二人の焦燥感を煽る。街は活気に満ちているが、俺たちの心は、戦場を離れたことでかえって重くなっていた。
裏通りを進むと、他の店とは一線を画した異様な熱気が漂ってくる。それが、ニールが話していたドワーフの鍛冶屋、『鉄砕きのバルガス』の店だった。店の外まで、金属を叩くけたたましい音と、炉からの熱気が噴き出している。
俺たちが店に入ると、全身煤だらけで、筋肉隆々のドワーフ、バルガスが火花を散らしながら作業していた。その肉体は、長年の熱と鉄との格闘で鍛え上げられた、生きる鎧のようだ。
「ふん、なんだ。ガキどもか。用がないなら、とっとと失せろ!」
バルガスは作業の手を止めずに俺たちを一瞥した。
ニールは、その威圧感に臆することなく、一歩前に進み出た。
「バルガスさん。俺たちは、B級冒険者『ジーンズ』と『ニール』。悪いが、あんたの暇を潰しに来たわけじゃない」
ニールはそう切り出すと、ガイエルからの紹介状と、今回の『護衛種の甲殻の破片』をテーブルに音を立てて置いた。同時に、布に包んだマーティンの戦斧と、俺の長槍を差し出した。
バルガスは作業を止め、その甲殻の破片を巨大な手で拾い上げた。彼の瞳は、その硬度と組成を一目で見抜いたようだ。
「……ほう。この硬度と粘性。なかなかやるな。これを貫く武器を求めるのか」
ドワーフは、次にマーティンの戦斧を手に取った。彼はその重厚な斧を、まるで赤子を抱くかのように軽々と持ち上げると、刃こぼれや、激しい衝撃で歪んだ柄を、注意深く観察した。
「これは……随分と手荒に扱われた斧だ。だが、この柄の磨耗具合、この微妙な重さの偏り……この斧を振るう奴は、自分の体と、この道具の限界を知り尽くしている」
バルガスの鑑定は、単なる武器の検査ではなく、マーティンという一人の戦士の戦い方を読み解く行為だった。彼は、俺たちからの説明を待たずに、マーティンの武器へのこだわりを正確に察していた。
「刃を打ち替えるだけじゃ、この斧は生きねえ。持ち主の筋肉の癖に合わせて、バランスを再調整する必要がある。それに、この斧と、その長槍が求めるのは、並の魔鋼じゃねえな」
「その通りだ」ニールは待ってましたとばかりに、金貨袋の他に、城門の戦場で回収した「高純度魔力鋼の合金片」をバルガスに見せた。これは討伐隊が使うはずだった最高級の素材の一部だ。
「俺たちが持ち込んだ素材はこれだ。要求はただ一つ。一刻も早く、あの女王の甲殻を砕く最高の矛と、その矛の力を最大限に活かす最高の盾を作り上げることだ、対価は金と街を、そして王都を救った英雄が求めた武器を作ったという名誉」
ニールは、金を出すだけでなく、この取引が持つ意味、つまり究極の挑戦であることをバルガスに突きつけた。
バルガスは、稀少な合金片を鷲掴みにし、その顔に狂気的な笑みを浮かべた。
「面白い対価だ!いいだろう。最高の獲物を仕留める、最高の道具をくれてやる。なら急ぐぞ。これほどの素材を前にして、のんびり槌を振るう気にならん」
彼はそう言い放つと、ふらつきながらも炉の奥へ消えた。
「三日後、再び来い。それまで、俺は寝ないで槌を振るってやる」
その言葉は、俺たちへの指示というより、彼自身の肉体と精神に対する、常識を超えた命令だった。
俺たちの女王討伐への準備は、今、王都のドワーフの炉で、極限の熱と力をもって始まった。俺たちはバルガスが提示した三日という期限を、最高の武器を手に入れるための絶対条件として受け入れた。




