表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/33

残響

王都の討伐隊が到着したことで、戦局は一気に転換した。

熟練の騎士団と魔法使いが加わると、統率を失った『貪食の眷属』の群れは次々と殲滅されていった。騎士団の魔鋼の矢と、魔力による広範囲攻撃は、眷属の硬い甲殻を容易に貫通し、その数を急速に減らしていった。城壁の下で、リゼルとニールは仲間たちと共に、討伐隊を迎え入れる準備を整えていた。

俺は血に塗れた槍を杖代わりに、倒れたマーティンの元へ駆け寄り、彼の巨体を抱き起こした。

「リゼル!マーティンを頼む!早く応急処置を!」

俺の叫びに、リゼルは傷を負った体に鞭打ち、すぐに仲間の手を借りてマーティンの傷の手当てに取り掛かった。

「ひどい損傷よ。骨が何本か折れているわ……出血も止まらないわ」

リゼルの顔が暗くなる。俺の心臓は締め付けられた。ニールは冷静に、討伐隊の先遣隊にマーティンの状況を伝え、最も腕の良い回復術師を派遣するよう手配している。彼はもう、一介の冒険者というよりも、現場の危機管理の責任者として動いていた。

戦闘が完全に終結するまで、俺は槍を血に染めたまま、マーティンの傍らに立ち尽くしていた。夜明け前の寒空の下、城門前には無数の眷属の残骸が積み重なり、その異臭が辺りを覆う。


夜が明け、太陽が完全に昇る頃、討伐隊の隊長がガイエルを伴って俺たちの元へとやって来た。隊長は、精悍な顔つきのB級冒険者だった。

「ご苦労だった、ガイエル殿。そして……あなた方が」

隊長は、血まみれのマーティンを治療しているリゼルたちと、満身創痍の俺を見て、目を細めた。

「あなた方が、C級の『ジーンズ』ですね。報告は受けています。あなたがた二人の連携が、この城門が破られるまでの時間を稼ぎ、女王の別個体による最初の波、そして何より隊長種による中央突破を防ぎきった」

隊長は俺に一礼した。その仕草は、純粋な敬意と感謝が込められていた。

「マーティンは……命は助かりますか?」俺は尋ねた。

隊長は、俺の質問を遮ることなく、静かに答えた。

「重傷だが、王都から連れてきた腕の良い回復術師が処置に当たっている。命に別状はないそうだが、しばらくは療養に専念する必要があるみたいだ」

俺は全身から力が抜けるのを感じ、その場にへたり込んだ。戦いの緊張が解け、一気に疲労が押し寄せる。俺は、その場で意識を失う寸前だった。


二日後。

マーティンは街の療養所で意識を取り戻し、一命を取り留めた。それから俺は毎日のように見舞いに行き、現状を報告している。

そして、討伐隊が『大穴』の本格的な調査と討伐を開始する中、俺はギルドマスターのガイエルに呼び出された。

ギルドの酒場は、討伐隊の冒険者たちと、安堵した街の住民たちでごった返していた。ガイエルは、騒がしい酒場の片隅の席を指差した。

「座れ、ジーンズ」

俺が席に着くと、ガイエルは銀色のプレートをテーブルに音を立てて置いた。それは、これまで俺たちが身につけていた銅色のC級のプレートとは違う、より洗練された銀色の光を放っていた。

「討伐隊の隊長と、リゼルからの報告、そして何より、お前たちが成し遂げた功績に基づき、ギルドは緊急措置を取った」

ガイエルは、分厚い指でプレートを叩いた。

「お前たちがC級に居残るのはギルドの損失だ、と俺は言ったな」

俺は無言で頷いた。

「これを見ろ」

ガイエルが、銀色のプレートを裏返す。そこには、はっきりと刻印がされていた。

【B】

「お前たち二人は、B級冒険者への昇格が認められた。討伐隊の最高指揮官の推薦付きだ。しかも、通常の昇格試験などという、まどろっこしいものはなしだ」

ガイエルはそう言うと、俺を睨み付けるいつもの強面な笑みを浮かべた。だが、その目には、深い誇りと満足の色が宿っていた。

「リゼルたち先遣隊は、情報収集というB級任務を達成したことで、追加の報酬と名誉が与えられた。そしてニールは、混乱の中で街の防衛準備を混乱なく進めた功績で、ギルドの防衛組織の連絡役という重要な役割を任された」

ガイエルの言葉は、この戦いが、単なる俺たち二人の武功ではないことを明確に示していた。

俺はプレートを手に取り、その冷たい銀色の感触を確かめた。この昇格は、俺たちが『紙一重』だと諦めていた壁を、文字通り命懸けの激戦で打ち破った証だ。

「マーティンにも、ちゃんとこのプレートを渡してやれ。あの馬鹿も、これでようやく安心して骨折を治せるだろうよ」

俺は静かに頷き、B級プレートを握りしめた。これからは、今までとは違う責任と、違う世界が待っている。

俺はニールの方へと歩み寄った。ニールは、俺たちの昇格を知っているのだろう、エールを飲みながら、誇らしげな笑みを浮かべている。


「ニール、あんたの協力がなければ、俺たちはとっくに潰されてた」

「何を言ってんだ、ジーンズ。俺たちは仲間だろ。だが、これで俺たちもB級、いや、それ以上の目標を持つ仲間になった」

彼はエールを差し出した。俺は自分のジョッキを持ち上げ、そのエールに打ち鳴らした。

「ああ。ここからが、本番だ」

宿場町の英雄となったベテラン二人組は、病床の相棒と、新たな役割を得た仲間、そして命を賭けたリゼルたちと共に、宿敵との最終決戦へと向かう準備を始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ