激しく震えて
数百にも及ぶ『貪食の眷属』の群れが、地を這う黒い波となって城壁めがけて押し寄せてくる。その城壁は、辺境の宿場町のものらしく、分厚い石積みではあるものの、大規模な攻城戦を想定した鉄壁の要塞ではない。そして、奴らは城壁の最も低い中央部分、つまり俺たちが陣取っている場所を狙っていることが明らかだった。
「防御じゃもたない!ここで潰す!」
俺の決断に、マーティンは一瞬にして同意した。彼の大きな目が、獲物を前にした獰猛な狩人のように光る。
「よし!ジーンズ、お前の槍は一点突破に特化している。俺が盾になる!奴らを、城壁まで引きつけるな!」
ガイエルの「弓隊、放て!」という叫びが響き、二度目の矢の雨が降る。しかし、矢は眷属の分厚い甲殻に弾かれ、まるで小石を投げているかのような効果しか示さない。城壁の上からは、兵士たちの焦りと苛立ちが伝わってくる。
「消耗戦は避けろ!奴らを城壁まで引きつけろ!」
俺たちは、周囲の冒険者たちが驚愕する中、城壁に設置された簡易的な梯子を駆け下りた。城壁の下に降り立つと、そこはすでに凄まじい熱気と、先ほどの戦闘で倒れた眷属の粘液と腐敗臭が混じり合った異様な空気に包まれていた。
「奴らの狙いは、この城門だ!ここを塞げば、王都からの援軍まで時間を稼げる!」
マーティンは吼え、巨大な戦斧を地面に突き立てた。彼はそのまま、城門前の開けた空間を、たった一人で塞ぐ動く盾となった。俺の役割は、マーティンの巨体の後ろから、護衛種のわずかな隙間、特に前回効果があった関節部を正確に射抜くことだ。
最初に突っ込んできたのは、偵察兵クラスの眷属十数匹。彼らは俺たち二人を獲物と見定め、四方八方から襲いかかってきた。
「雑魚は俺が掃除する!」
マーティンは戦斧を回転させ、迫りくる眷属の群れを次々と叩き潰していく。その一撃一撃は岩をも砕く勢いで、甲殻が砕け散る音と、骨が折れる鈍い音が、まるで打楽器のように響き渡った。彼の巨体が振り回す戦斧は、まるで巨大な風車のようだ。
その間、俺は槍を構え、マーティンの視界の外から侵入しようとする眷属の喉元や関節を正確に貫いた。俺たちは、文字通り壁と針となり、迫りくる第一の波を押し留めた。
しかし、その激しい攻防の背後で、いよいよ本命が動き出す。
「ジーンズ、来たぞ!デカいのが!」
マーティンの声が緊張を帯びた。
数体の『護衛種』が、その巨大な鎌脚をゆっくりと動かし、俺たちに狙いを定めて接近してくる。そのうちの一体は、全身の甲殻が分厚いだけでなく、体長が三メートル近くある巨体。これが、リゼルが言っていた護衛種の隊長だろう。
隊長は、獲物を観察するように一度動きを止め、その巨大な鎌脚をマーティンめがけて振り下ろした。
ズオオオオオン!!
風を切る音と共に、鎌脚がマーティンに迫る。マーティンは、その凄まじい一撃を、戦斧で受け止めるのではなく、巨体を横に滑らせて回避した。鎌脚が地面を叩き、城門前の石畳に深い亀裂が入る。
「くそっ、重い!一撃でも食らったら終わりだ!」
マーティンは体勢を崩しながらも、すぐに体勢を立て直す。
その隙を狙い、別の護衛種が俺めがけて突進してきた。
「甘い!」
俺は突進の勢いを予測し、護衛種の首と胴の境目、わずかな甲殻の継ぎ目を狙って、渾身の力を込めて突き込んだ。
ガキンッ!
想像以上の硬さ。槍の穂先は、辛うじて食い込んだものの、深くまで達しない。俺が槍を引き抜く暇もなく、護衛種がその鎌脚を振り上げ、俺に襲いかかった。
絶体絶命の瞬間、マーティンの戦斧が横から閃光のように飛び込んできた。
ギチギチギチ!
戦斧は、護衛種の鎌脚と胴体をつなぐ関節に、その刃を食い込ませた。甲殻が軋む嫌な音と共に、護衛種の動きが止まる。
「ジーンズ!離れろ!」
マーティンは、護衛種に戦斧を食い込ませたまま、そのままの勢いで、巨体ごと護衛種を背後の眷属の群れめがけて投げ飛ばした!
ドゴォオオオオオン!!
凄まじい衝撃音が響き渡り、投げつけられた護衛種は、後方から迫っていた数体の眷属を巻き込み、まるで巨大な岩が転がったかのように、次々と押し潰していった。周囲の雑魚眷属の動きが一瞬止まる。
「今のうちだ!俺の後ろにいろ!」
マーティンが俺を庇うように、大きく息を吐きながら叫んだ。彼の背中は、動く要塞だ。しかし、残りの護衛種と、その後ろで蠢く数百の眷属の群れは、その犠牲を気にも留めない。むしろ、その犠牲によって、彼らはさらに城門への距離を詰めてきていた。
「残り四体!ジーンズ、やるぞ!ここが正念場だ!」
マーティンの顔に、疲労の色が滲み始めた。彼の驚異的な体力も、限界に近づいている。俺たちの命運は、この数分間の攻防にかかっていた。




