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闇の中の戦い

甲殻と鋼が衝突する凄まじい音が、巨大な穴の壁に反響し、幾重にも増幅された。

俺の槍の穂先は、飛びかかってきた『貪食の眷属』の鎌状の前脚の付け根を狙ったが、硬質な甲殻に阻まれ、わずかに滑った。その衝撃で、俺の体はロープに吊るされたまま大きく揺さぶられる。

「くそっ!」

俺は即座に体勢を立て直し、槍を引き抜く。この甲殻の硬さは、これまでの『甲羅兎』とは比べ物にならない。

「ジーンズ、そいつは手強いぞ!弱点は関節だ!」

リゼルが素早く指示を出す。彼女はロープに片手をかけ、短剣を逆手に持ち、すでに戦闘態勢に入っていた。

「わかってる!」

眷属は、獲物を取り逃したことに苛立ったように、グルルルッと低い唸り声を上げながら、再び鎌脚を振りかざしてきた。岩壁を蹴り、その巨体をねじ込ませるような攻撃だ。

俺は槍を横に払い、迫りくる鎌脚を真横から叩きつけた。キン!という甲高い音と共に、眷属の動きが一瞬止まる。

その隙を見逃さず、リゼルが動いた。彼女はロープを軸に体を回転させ、まるで闇に溶け込むかのように眷属の背後に回り込むと、甲殻の隙間、首と胴の接続部めがけて、短剣を電光石火で突き立てた。

ズブリッ!という、肉を抉る嫌な音が響く。

「グアアアアァ!」

眷属は初めて悲鳴を上げ、体を激しくよじらせた。しかし、リゼルの短剣は深くまで達していない。

「まだだ!甲殻が厚すぎる!」リゼルが歯を食いしばる。

マーティンが上から大声で叫んだ。「引き上げろ!そこじゃ体勢が悪すぎる!」

その声に、眷属は頭上へと意識を向けた。そして、俺たちから目を離したその瞬間、俺は渾身の力を込めて、槍を横に振り抜いた。狙いは、リゼルが傷をつけたわずかな隙間だ。

「貫けっ!」

柄がしなるほどの力で突き出された槍は、リゼルがこじ開けた甲殻の隙間を深く貫き、内側の柔らかい組織へと到達した。

眷属は短く断末魔の叫びを上げると、急速にその動きを止め、ロープから離れた岩壁を滑り落ちていった。その甲殻が穴の底の闇に激しく衝突する音だけが響き、その後は再び静寂が訪れた。

俺は荒い息を吐きながら、槍を引き抜き、ロープに全体重を預けた。汗が額を伝う。一対一では勝てなかったかもしれない。

「流石だ、ジーンズ。相変わらず一撃必殺だな」

リゼルが少しだけ呼吸を整え、俺を褒めた。その顔には、安堵の色が浮かんでいた。

「お前もな、リゼル。」

俺たちは短く言葉を交わしたが、安堵は一瞬で消え去った。

「今の音で、他の眷属が気づいただろう」

マーティンが上から叫ぶ。

「急げ、ジーンズ!報告書を見つけたらすぐに引き上げるぞ!」

俺とリゼルは再び、松明の光を最小限に絞った。この辺りに報告書があるはずだ。二人で周囲の岩壁の僅かな窪みや、崩れた岩を探した。腐敗臭がさらに濃くなっている。

その時、リゼルの視線が、砕かれた鎧の破片の近く、岩の影に固定された。

「あった!」

彼女が回収したのは、濡れて汚れてはいたが、頑丈な革の表紙に包まれた小さな書類の束だった。王都ギルドの紋章が刻印されている。

「これだ!先遣隊の犠牲が無駄にならずに済んだ」

リゼルが報告書を素早く懐に収めた、その直後だった。

ゴオオオオオッ……

穴の底の闇から、今度は数十という、甲殻が擦れ合うような、おぞましい音が響き渡った。まるで、地面の下で巨大な虫の群れが蠢いているようだ。

そして、複数の赤い光――眷属たちの目が、穴の底の闇の中に、星のように瞬き始めた。

「まずい!大群だ!」

リゼルが叫ぶ。彼女の顔色は、松明の光の中でも青ざめて見えた。

「マーティン!引き上げろ!全速力でだ!」

俺は急いでロープを掴み直した。

「了解だ!しっかり捕まってろよ、相棒!」

上からマーティンの力強い返事が響き、ロープが勢いよく引き上げられ始めた。

だが、眷属たちの動きは、俺たちの想像よりも速かった。

シャアアアアア!

数十の甲殻が岩壁を駆け上がるおぞましい音が、俺たちの真下から迫ってくる。その中には、先ほどの偵察兵よりも遥かに巨大で、より分厚い甲殻を持つ個体の唸り声も混じっていた。

「来い!俺の斧が唸るぞ!」

マーティンが上から怒鳴る。彼は、ロープの確保と、迫りくる魔物への迎撃の二役を同時にこなすつもりだ。

俺たちの背後からは、鎌脚が岩壁を削る音が、すぐそこまで迫っていた。このままでは、登りきる前に追いつかれる。俺は槍を逆手に持ち、迫りくる最初の眷属を蹴り落とす準備をした。

その時、リゼルが懐から何かを取り出し、穴の底へ向かって投げつけた。

シュッという音と共に投げられたのは、小さな革袋だった。

次の瞬間、革袋が穴の底に着弾したと同時に、ドォン!という轟音と、凄まじい閃光が穴の底から噴き上がった。

それは、緊急用の閃光爆弾だった。光と爆音は、眷属たちの動きを一瞬完全に止める。

「今のうちだ!一気に登るぞ!」

リゼルの叫びが、俺の耳に届いた。この一瞬の猶予が、俺たちの命運を分ける。俺はロープに懸垂し、マーティンが全力で引き上げる力に身を任せた。

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