都会の片隅にある桜
淡い光降り注ぐ記憶の中のあなたは
私だけの隣に居てくれて
私だけを見てくれるから
とても安心を与えてくれる
記憶の中のあなたは予想外の動きをしないし
私を寂しい気持ちにさせることは決してない
現在のあなたからは
一歩一歩後退りして距離を取り
傷つかない範囲まで来てから
ようやく話しかけることにしよう
もしくは
忙しいあなたから
話しかけられることを待とう
あの記憶の中の淡い光は
一体何の光だったのかって
それは桜を透かせて降り注ぐ光だった
君と待ち合わせをしたビルの高層階
フレンチの店内から覗く中庭に面した一本桜
その場に現われ出た私に向けられた笑顔は
あなたそのもので
「会うまでにいつも不安になる」と
いまだにこぼしてくれて
淡い光の中でその厚い手を強く握ったのだ
あなたと都会の片隅の桜を目指して
隣のビルの中ほどに広がるスカイガーデンへ
恋人同士が鳴らすであろう
鐘の紐に手を伸ばし
無邪気にそれを揺らすあなたが眩しく
木々という生命に人工的な桜が施された
華やかな桃色のトンネルを通った後は
人知れず在るベンチに辿り着き
人知れずまたその手を握ってしまった
あなたと歩く都会の路地裏は
意外と発見に満ちていて
このデートの数日前
まるであなたが作業のついでに
私と電話をしていたかのように響かせていた
マウスのカチカチ音の理由を
この道中で知ることとなる
「あの日は君が
一緒に見るならひとけの少ない
都会の片隅の桜が良いって言うから
マップで探してた」
そこは都会の中で静かに凛と存在している
とある小中学校の第二グラウンド
フェンス越しに咲き乱れる桜はこの瞬間
紛れもなく私たちだけのものだった
淡い光降り注ぐ記憶の中のあなたは
私だけに優しい




