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ガラス張りで囲われた長方形の空間
とあるTV塔の中頃に
ガラス張りで囲われた
長方形の空間が存在した
外からTV塔を見上げた人々が
その窓ガラスを通して
中で一体何が行われているのかを
気に留めるかどうかは分からない
TV塔の中から外の景色を眺める人々が
その窓ガラスを通して
自分たちの存在が
認識されているのかどうかを
疑問に思うかは分からない
ただ、間違いないことは
あの日その長方形の空間内にあるベンチで
耐えられなくなった私は静かに涙を流し
いつもは遠い場所にいるあなたが
奇跡的に隣にいたということだ
『もう、私の心がもたないかもしれない』
そうやって時間をかけて
私は決意に近づいたのに
涙に濡れたマスクを外しかけた瞬間
あなたが不意に近づいて
重ねた唇の嘘のような柔らかさ
私はまた決意を
延期してしまった




