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不可視な擦り傷の痕
君が段階的に
夢を叶えようとする度に
私は丁寧に傷つく仕組みになっていた
人からすれば
どこに傷つく要素があるのだろうかと
首を傾げずにはいられないかもしれない
好きな人が
なりたい自分に向けて全神経を注ぎ
華やぐ世界に身を投じているんだ
だから私は
ただただ応援し続けられるくらいの
海のような広い心を持っていられれば良かったのに
たくさんの人が見ている中
中心にいた君の隣で
主役の女の子が涙を流し始めた時
私は誰にも見えない場所で
泣いてしまった
いつもはかっこいいあの女の子が
君のすぐ隣で弱いところを見せていたから
「これはやられるよ」
と思った
それは
君の心の揺れ動きを心配したのか
シンプルに嫉妬をしていたのか
理由はひとつではないかもしれないけれど
君が段階的に
夢を叶えようとする度に
私は丁寧に傷つく
心臓がいくつあってもたりない
誰のせいでもないのは
自己治癒後の不可視な擦り傷の痕