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食虫植物のように開く傷
彼につけられた心の傷が
食虫植物の口のようにパックリと開いたまま
まるで低くうめき声をあげているかのように
なかなか乾き治ろうとしてくれなかった
その傷自体は
ゆるやかな時間の経過が
なんとかしてくれるということを
今までの経験上知っている
ただ私にはやるべきことがあったから
気持ちを奮い立たせなければならないし
同じようにダメージをくらい
またおぞましい食虫植物に
身体を乗っ取られるわけにはいけない
「こうゆうことが起こる可能性を
事前に心に言い聞かせておけばいいんだ」
ひとりごち
胸の前でつくったこぶしで
強くそれを刻み込ませた
「ねぇ、こっちで面白いことしてるよ」
ハッと顔をあげると
『もう一人の私』が『私』の手をひいている
私は振り返りながら
傷と喜びの泉に立つ尽くす彼に
名残惜しい目を遣る
こんなに傷つけられたのに
あの日にまた戻りたい




