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夢中になれる贅沢な場所

「手羽先食べたいね、また」

と送られてきた何気ない文字に私は

とても希望に溢れた前向きさを感じ

でも叶う保証はどこにもない未来も見えて

思わず、乾いた外国の空を仰いだ




あの日

辛さと風味が際立つコショウが

満遍なくかかった手羽先を

人の目を気にせずにかぶりつけたのは

一人暮らしの彼の部屋にいたからだった


名古屋に住む彼を訪れたのは初めてだ


彼は転勤族で数年ごとに日本の中を転々とし

一方、私の勤務先はドイツだった


たまたま日本に帰って来ていた私は

どういうわけだか旧友の彼のもとを

訪れることになったというわけ


私たちはお互いまだ結婚していなくて


事あるごとに何かしら人生に疲弊していて


しがらみのない空間を欲していた




今はもう

手の中におさまる画面上の文字の中


「君が手羽先にかぶりつく画には良いものがあった」

となんだかまわりくどい言葉で

彼があの日を誉めるものだから


「あの時、薄着だったしね」と

黒レースのキャミソール姿になっていた自身の姿に

自嘲気味に理由付けをしてみた




ねぇ本当は


立場とか年齢とかを忘れて

また動物のように夢中になれる

贅沢な場所なんてこの先


普通はないんだよ

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