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等しく流れ去る音色
あの夢のような日
遠く、真向かいから歩いてくる人影に
私はひとつの真実を
目の当たりにした気がした
彼は少し進行方向を変えながら
私に向かって照れたように微笑み
腰のあたりで小さく手を振った
その瞬間私は
まるで最初から決まっていたかのように
恋に落ちた
この人でなければいけないと感じる一瞬
あの人ではだめだったと認める回想
恋の魔法は種類さえ違えば
解けない可能性はあるのだろうかと
まだ柔らかな希望を抱いてしまう
始まって間もない時期
まるで無垢な眼差しのようなものを
私から注ぐことをためらわせない相手の深い愛
カサカサと若い落ち葉を踏み鳴らし
公園内を横切りながら
吹奏楽部の自主練であろう
トランペットの音色に想いを重ねる
自動販売機周りの青いベンチに
たいしてやりたいことがないかのような人々が
ぼんやりと演奏に耳を傾け
少しでもこの時間に
価値を見出そうとしている
恋をしていても
していなくても
その切なげな音色は
等しく私たちの時の上に流れ去った




