第8話:イン・ラプト探索03(魔術屋続き)
「……それで、なに? 金庫の扉の奥が光っていて、こじ開けてみたらこの世界に来ちゃったって? な〜にバカ言ってんのよっ!」
「来ちゃったものはしょうがないですからね、ははっ!!!」
葉々見我 勲造は基本的にポジティブ。
お気に入りの歯磨き粉が売り切れていて、たまたま横に置かれていた使ったことのない歯磨き粉を使ってみたら、それが意外と使いやすく、嬉しかったことをきっかけに、世の中なんとかなると考えるようになった。
世の中なんて、そう考えたほうが楽だぞ。
「アタシの店はその……魔術屋なのよ。アンタの欲しがる、
シカン?なんとかっていうのは売っていないのよね」
「うわー、残念。でも魔術を売っているんですね! どんな事ができるんですか!?」
「どんなことって……そりゃあ色々よ」
そういって魔女は自前のステッキを手に取り、勲造に1つずつその場で見せる。
……
…
「例えば炎のモンスターに使える水圧の魔術、ウォーターガン。
その水圧は鋼鉄をも貫く(バシャー!)」
「うわー! 歯間の汚れもきれいに落とせそうですねー!」
「敵の姿をスキャンして弱点を見つけるスコープ・サーチャー」
「レントゲン要らずで虫歯や親知らずを発見できるね!」
「魔術で生成したドリルを飛ばすスマッシュドリラー、
非力な魔術師でも剣士と同様に戦える(ギュイーン!)」
「これならいつでも虫歯の治療ができるね!」
「相手の神経を麻痺させて、一定時間動けなくさせる
アネス・シージャ(ビリビリッ!!!)」
「治療前に患者さんに麻酔を投与できるから痛まなくて良いね!!!」
……
…
「…………」
「すごいですねっ! かっこいー!!!!!!」
もはや異世界の硬派な設定がぶち壊しである。
なんで魔術がなんでもかんでも歯科治療に使えるのだ。
いや逆にすごいが。
「……アンタ、魔術をなんだと思っているのよっ!!!」
「良くわかりませんっ!!! かっこよかったです!!!!」
こう言われてしまうと、魔女もただ面白いことが出来る
お笑い芸人になってしまうのだが。
「はぁ……もういい。アンタが客じゃないことはよく分かったわ。仕事の邪魔だからさっさと出ていきなさい」
「うーん、でもかっこよかったですし、どの魔術もやっぱ欲しいなー」
「アンタ、この世界の住人じゃないんでしょ? 魔術は高いわよ、お金なんて持っていないでしょうに」
「あ、でも、ここに来るまでに、何人かの賞金首?っていう人が居たので、たまたま制圧してたら、いつの間に報奨金を警備隊の人からたくさん貰っちゃいまして!」
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※第7話参照:
>>時折、物陰から襲いかかってくる強盗を何となくハイキックで蹴散らしながら、
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そう言って、勲造はカバンの蓋を開けると、
そこにはたくさんのダリーの束が詰め込まれていた。
「ひ、ひぃ…ふぅ、みぃ……えっ、ちょっ……えぇ……(大困惑)」
「警備隊の人が、確か142万ダリーとか言ってたと思います。
一部ヤバい人も居たみたいですね、ははっ」
「……いや、ははっ、じゃないんだが!!??(大困惑)」
イン・ラプトでは王国に反感を抱く「王の涙」という反逆団体が存在しており、人々に危害を加えては、釈放のために国から釈放金を奪い取る凶悪な犯罪を繰り返していた。
人々はそれを恐れ、また警備隊も、より厳重に王国の警備にあたるようにし、2年という長い年月の期間、緊張状態が続いていた。
そんな状況の中、たまたま勲造がこの店に来るまでの間にさらりと蹴散らしていた悪人たちが王の涙であり、その中にはボスと幹部たちが含まれており、
わずか数分の間に王国の危機を救う偉業を成し遂げていたことを、勲造は知らない。