第4話:謎の扉の先には
皆が帰宅したことを見届けた後に、
勲造は栄子が言っていた開かずの倉庫の前へとやってきた。
以前、この場所は税理士事務所として使われていたらしいが、社長が病気でなくなってしまった都合もありそのまま倒産。
他の社員が金庫を持ち帰る義理が有るわけでもなく、
社長には他の家族も居なかったことで、そのまま残されてしまったということだ。
「確かにちょっと中身は気になっていたけど、別にそこまで邪魔じゃなかったし、なんとなくスルーしちゃってたなぁ」
この手の金庫はお金をかけて鍵屋に解錠を依頼したとしても、基本、大したものが入っていない可能性のほうが高い。
僅かな領収書や、僅かな蓄え、証明書など、会社がなくなった現在では価値のない紙切れだ。
少なくとも、大金が入っているような欲深かな期待をするものではない。
あったところで貰えるものでもないので、正直変なものさえなければいいのだ。
という深い思慮を勲造がいちいち行うわけもなく。
「歯と歯茎の隙間に溜まる歯石を取り除く超音波スケーラー。これを金庫の扉の隙間に差し込みます」
ぐいっとグイグイ繊細に差し込むと。
「スケーラーを使うときは、少しずつ歯石をすくい上げるように辛抱強く除去していこうね! 間違っても歯茎を傷つけるようなことはしちゃダメだよ! あと、歯石除去は一般の方は自分で行わず、プロの歯科衛生士さんにお願いしようね!」
そんなわけでプロの歯科医師がスケーラーを金庫の中に差し込んだということは、やることは一つ。
「音波の力で、支点! 力点! 作用点!!!!」
という軽快な掛け声のもとで、20万円位する耐震耐火の頑丈な大型金庫の扉が、
バキッ!!!!!!!!!
と、いとも簡単に破壊された。
「さっすが超音波スケーラー! 毎秒2万7千回の振動を発生するすぐれものだね!」
と、空いた金庫の扉を開けたその瞬間!
扉の隙間からこぼれていた光が、解錠と同時に部屋の中に溢れかえり、勲造をまるごと包み込む。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!!!」
部屋中がまばゆい光で満たされ数秒が経過する。
そして一気に収まると、
「…………」
そこに居たはずの勲造の姿が消えてしまった。
スケーラーとともに。