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さて、問題です。

 杉本春希が『KURO』に対する誹謗中傷を知ったのは数日前のことだった。


 場所はカラクロのユーザが集まる交流用SNS。そこに素性不明のアカウントから口汚く『KURO』を罵る投稿が連続して並んでいる。『KURO』はカラクロ内での黒崎歩美のアカウント名だった。


 確証はない。けれど、春希にはこれを投稿した人物に心当たりがあった。




* * *




「あれ? 井汲さん、もうログアウトしちゃうんですか?」


「ごめん、黒崎さん。今日、部活の会合があるんだ」


 そう言って手を振り、井汲亜矢はパーティを抜ける。壁に等間隔に並んだ松明が揺らめく洞窟の中に、春希と歩美だけが残された。


「それじゃあ、春希君、あたしたちだけで狩りを続けましょうか」


 ギュッと二の腕に抱き着いてくる歩美をチラリと見下ろし、杉本春希は静かに応える。


「ごめん、黒崎さん。アタシもちょっと用事があるんだ」


「えー、寂しいです! せっかく春希君ともっと仲良くなれる機会なのに」


「埋め合わせは必ずするよ。さ、一人だけだと危ないから、一緒に集会所に戻ろう」


 まだ未練がある様子の歩美の手を引き、春希は洞窟を後にする。彼女を集会所まで送り届けると、春希は一人、ログアウトした。




* * *




「あっれー、鉄骨どうした? 電気も着けないでさ」


 井汲亜矢が会合から寮の部屋に戻ると、VRゲームの世界から戻ってきた春希がベッドに腰掛けていた。部屋の明かりは点けられていないが、亜矢は彼女の姿をしっかりと捉えることが出来た。出る時には確かに落としたはずの亜矢のパソコンが立ち上がっていて、部屋の中がモニタから発せられる青白い光で満たされていたからだ。


「……やっぱり、亜矢が犯人だったんだね。投稿の中に、黒崎さんと近しい人間じゃないと書けないものがいくつかあったから」


「なんだ、バレちゃったんだ。酷いなあ、人のパソコンの中身を勝手に見るなんて」


 亜矢のパソコンのモニタには、『KURO』を誹謗中傷していたアカウントのマイページが映されている。井汲文の声は、こうなることは想定済みだとわかっていた風に落ち着いたものだった。


「なんでこんな酷いことするのさ。黒崎さんとは友達だろ!」


「アタシと彼女が友達ってのは鉄骨の頭の中でだけでしょ。アタシは最初から、黒崎歩美の事は嫌いだったよ」


「……なんでだよ! 良い子だろ、黒崎さん」


 春希の問い掛けに、亜矢は顔を背けて肩をすくめる。


「理由は二つかな。一つは単に、アタシ、ああいう『あたし弱いです。何も出来ません。守ってください』って態度の女嫌いなんだよね。


 もう一つはさ、……あの女、鉄骨の事が好きだろ。みっともないけど、純然たる嫉妬だよ」


「……? 意味わかんない、それってどういう――」


 言いかけて、春希は言葉を切る。亜矢がスカートのポケットから何かを取り出し、自身の顔の前に掲げた。


「ごめんね、鉄骨。コレとか腕時計とかボールペンとか、あんたが失くしたと思ってた物、全部アタシが盗んだんだ。後輩から貰ったっていう手紙はビリビリに破いてトイレに捨てちゃった」


 亜矢が取り出したのはシュシュだった。一週間前、歩美と遊びに行った日の朝、春希が見つからないと探していたものだ。


「鉄骨の肌に触れてた部分、凄い良い匂いがする。あんたとベッドの上で抱き合ったら、やっぱり同じ匂いがするのかな」


 井汲亜矢はシュシュの内側に鼻を埋めて臭いを嗅ぐ。その行為に春希が引いているのを横目で確認すると、彼女は口元を歪める。


「さて、鉄骨に問題です。十秒以内に答えてね。


 女の子の事が好きな女の子の中には、相手の事を想っているだけで心満たされるタイプと、身も心も自分のモノにしなきゃ満足できないタイプがいます。――さて、アタシはどちらのタイプでしょうか?」


 亜矢はシュシュをポケットにしまうと、ゆっくりと春希をベッドの上に組み倒す。突然の状況に対処できない春希は、彼女にされるがままだった。


「……さん、に、いち、ゼロ。残念、時間切れ。正解は――」


 亜矢の伸ばした舌先が、春希の耳の縁を舐める。


「――あんたの身体に欲情している、不純まみれな方のレズビアンでした」

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